頂につらなる雪に厩出し 前田普羅2019年04月27日

句集「飛騨紬」から
 厩出しとは冬の間、厩舎内で飼育していた馬、牛を牧場に解放することであり、春の季語である。私には初見の季語である。
 厩といえば飛騨の清見村(今は清見町)には夏厩、六厩の地名がある。いずれも馬を飼うことに由来している。私の家でも昭和30年代は祖父がせっせと牛の世話をやき、子牛も生ませていた。耕作に欠かせない家族のような存在だった。
 広大な飛騨高原の開拓地には多数の馬がいたと思う。隣りの長野県開田高原は標高およそ1200mあり、木曽馬の産地である。木曽馬は農耕馬として大切に飼われた。飛騨でも多数飼育されたそうだ。
 この句はどこかは不明であるが、牧場とつながっているようなそんなに高い山ではない頂きを想像する。牧場にもまだ雪があって山頂と境がないのであろう。そんな所へ馬が解き放たれたのだ。馬は寒さにも強く、雪の上でも走る。鼻から白い息を弾ませながら疾駆する光景が浮ぶ。
四月に旧清見村の猪臥山に登山した際、北麓は小鳥峠であった。頂に連なる牧場のイメージがこの句にぴったりする思いで眺めた。頂の語彙を冠にする点が山好きな作者の面目躍如と言った所。