雪つけし飛騨の國見ゆ春の夕 前田普羅2019年04月26日

 句集「飛騨紬」から
 大景である。ちまちまと細部を描かず、平明にしてリズミカルな覚えやすい俳句である。声に出して読みたい一句でもある。これを韻を踏むという。どんな場面か想像するだに美しい景色が浮ぶ。飛騨の国というが飛騨はすべて山に囲まれているから本当は北アルプス、乗鞍岳辺りを望見しているのだろう。
 普羅は大正13年、報知新聞記者として富山に赴任後、地理を覚えて山の名前をかなり諳んじている。現在の20万地勢図を愛読していたように思える。当時は陸軍参謀本部何某の役所であったが。昭和4年末には俳句結社「辛夷」の主宰を引き受けている。
 そうして神岡鉱山の社員らの句会指導も引き受け、度々飛越線(現在の高山本線)に乗って神岡に出向いた。全通する昭和10年当時までは笹津辺りで折り返し運転だったという。飛騨入りすると峡谷に入るのでこんな大観は得られない。普羅を慕う弟子達が待つ神岡へと胸をわくわくさせながら飛騨へと入っていった。そんな飛騨の山と人への敬慕の念が篭った俳句である。神岡町円城寺には句碑もあり余程師弟関係が厚かったのだろう。