誰が聟ぞ 歯朶に餅おふ うしの年 芭蕉2021年01月18日

鳳来寺山への道に見える歯朶
・・・いったい誰の婿だろうか。牛の背中に、羊歯を添えた鏡餅を乗せて、その牛を追い行くのは。まさに丑年の、正月のこの山里に。
(左大臣ドットコムから)
https://koten.kaisetsuvoice.com/Nozarashi/10Igaueno2.html

 原典は「野ざらし紀行  1684年 41歳       

 千里に旅立ちて、路粮(みつかて)をつゝまず、三更月下(さんこうげっか)無何(むか)に入ると云けむ、むかしの人の杖にすがりて、貞享(ていきょう)甲子(きのえね)秋八月江上の破屋を出づる程、風の声そゞろ寒げ也。
 野ざらしを心に風のしむ身哉」
 
・・・鳳来寺山の登山道は一定の高さになると歯朶類が繁茂して、登山道を覆うようになる。三河の山中には珍しくない植物である。南紀辺りの山にもたくさん繁茂している。
 子供の頃はこれを採りに行った記憶がある。今にして思えば正月を迎える準備だった。田舎暮らしには晴れとケのメリハリがあった。
 
     虚子編『新歳時記』には
 山野に自生してゐる歯朶は永く人に忘れられてゐるが、これを刈り、町にもたらし、新年の飾りとしてわれわれの前に現れた時、始めて年改まるというなつかしい感じをこの草に覚える。餅に敷き、膳に敷き、飾りに結ばれる。山草、穗長、裏白、諸向きなどの名がある。

     稲畑汀子編『新歳時記』になると少し違って
 葉はぜんまいに似て、わが国暖地の山野に多く自生している。正月に飾るのは、常緑のまま繫栄し、また歯は齢に通じ、朶は延べる、つまり長寿を祈る意味が込められているからという。以下は踏襲されている。

     榎本好宏『季語成り立ち辞典』は
 正月の飾りに使う歯朶は裏白です。葉裏の白に、夫婦の「友白髪」を見、葉が相対するところから諸向の名を与え、夫婦和合の象徴を見、葉の常緑に繁栄の思いを重ねて、正月の縁起物としています。また葉がしだれるさまを「歯垂る」に掛けて長寿の意味を持たせた、めでたさずくめの縁起物植物と言えます。