映画「妻は告白する」鑑賞2007年08月29日

 1961年大映制作。原作:円山雅也。増村保造監督。白黒。主演は若尾文子(28)川口浩(25)、小沢栄太郎ら。
 昨夜の余韻か、再び山岳遭難に題材をとった映画を観たくなった。映画のタイトルからは山岳遭難とは思えない。最近刊行された新潮新書「邦画の昭和史(長谷部日出雄)で知った。
 若尾文子と川口浩の代表作といわれる。川口浩の妻は前夜観た「氷壁」で菅原謙二の恋人役となった野添ひとみである。不幸にも川口は87年に51歳で死去。妻も95年に死去。この作品を最後に大映を退社したから最後の映画作品となった。川口、若尾コンビは小津安二郎の「浮草」(1959年)でも好演。山本富士子を「彼岸花」で借りたお返しに撮った。これもいい映画であった。大映を代表する美男美女の花のようなスターであった。
 若尾文子は黒川紀章の妻で最近は政治活動にも話題があがるほど元気。その若尾が真剣に取り組んだというだけに難しい役であった。岩場でザイルを切断し、気の合わない年の離れた夫を転落死させる。夫には高額の生命保険がかかっていた。若い川口と何とか助かって結婚したい年上の女の心の底に蠢く殺意。裁判では無罪を勝ち取るが川口の婚約者もいて一直線にとはいかない。
 最後のシーンは黒っぽい和服姿で髪も足元も雨に濡れたまま川口の勤務先を訪れる。放心したようにその時の愛想笑いにならない愛想笑いがぞっとするほど恐い気がした。周囲の社員も口を開けてポカンと見ているだけの異様な光景である。この演技で若尾文子は女優としての地位を確立したという。
 「邦画の昭和史」の長谷部さんは大女優は可愛い、美しい、凄い、恐いの段階を経て成長するという。念頭には山田五十鈴や田中絹江があるらしい。「浮草」の若尾は着物姿が美しかった。「雁の寺」(1962年)も良かったがこの作品ほどではない。凄いをパスして一気に恐いに飛んだか。
 この作品のクレジットを観ていたら円山雅也が目に止まった。彼は著名な弁護士(日大法科)で法律関係の著作が多い。若い頃は奥山章とザイルを組むパートナーであった。戦後は日本山嶺倶楽部を結成。法律家としての仕事が多忙になって山から遠ざかったようだ。原作は恐らく「遭難・ある夫婦の場合」か。登山活動は佐瀬稔「喪われた岩壁第2次RCCの青春群像」(新潮文庫)に少し出てくる。
 山岳遭難の場面よりも法廷での裁判の場面が多いのは裁判官や弁護士の経験ゆえであろう。山やにとって「氷壁」は本格派の作品であり、「妻は告白する」は山の度合いが少ない分異色作であった。しかしながら女を描いた逸品である。といえる。(新田次郎の作品のように山や自然に傾くと面白みが薄れる。)