御名残御園座歌舞伎観劇記2013年03月08日

 御園座は今年3月26日の興行で閉幕後、再開発のために取り壊し、2018年7月にオープンする予定になっている。3/7は、3/2から始まった御名残御園座の三月大歌舞伎を楽しんだ。
プログラムは以下。
昼の部は11時開演
一、小栗栖の長兵衛 一幕
(岡本綺堂 作、 市川猿翁 演出)

 主役は市川中車(いちかわちゅうしゃ)である。元は映画俳優の香川照之である。映画「剣岳 点の記」の中で、山案内人の宇治長次郎を演じた。人相は梨園の格式高い出自にしては、野生的で精悍そのものであるからはまり役である。
 長兵衛役も農民であり、酒飲みで、女好き、粗暴、野卑な風貌を求められるので、香川照之のイメージに合う。
 時代は戦国の世、京の都の伏見の山際にある小栗栖なる山村を敗走中の明智光秀を訳もわからぬままに竹槍で突いた。偶然、腹を刺したか、すぐに刀で竹槍の先を切り落としたものの、出血多量?で死を覚悟し、切腹、自害した。この先っぽを現地で拾った秀吉側の武士が、褒美を与える目的で竹槍を持った野武士を探しにきた。
 小栗栖のムラで、村人等は最初はそんな人は居ませんと、いうのだが、暴れてぐるぐる巻きにされた長兵衛が自分だ、と名乗ることで物語が急転回する。
 全体にコミカルで軽い内容の楽しい舞台劇だった。

二、猿翁十種の内 黒塚
(木村富子 作)
筝曲 唯是震一+中島靖子 社中出演
四世 杵屋佐吉 作曲
    吉井澄雄 照明

 これは日本百名山の安達太良山山麓の二本松市の黒塚伝説を題材にした物語。WIKIから引用すると
「黒塚(くろづか)は、福島県二本松市にある鬼婆の墓、及びその鬼婆の伝説。安達ヶ原に棲み、人を喰らっていたという「安達ヶ原の鬼婆(あだちがはらのおにばば)」として伝えられている。黒塚の名は正確にはこの鬼婆を葬った塚の名を指すが、現在では鬼婆自身をも指すようになっている[2]。能の『黒塚』に登場する鬼女も、この黒塚の鬼婆だとされる。」

 これでは何かわからないので検索で探しましたら二代目「市川猿三郎 二輪草紙」がヒット。ブログから転載させていただきます。ブログ主は「澤瀉屋(おもだかや)」の門人で、今回は御園座にもご出演されています。小栗栖の長兵衛では、立場茶屋 重助役、ぢいさんばあさんでは柳原小兵衛役。
http://blogs.yahoo.co.jp/enzaburou/folder/335280.html


「福島県二本松市の、鬼婆伝説の中に『黒塚』のモデルがございます。


鬼婆の伝説はあまりにも悲しく 切ないです。


その昔 京都の公家屋敷に「岩手」と云う乳母がおり 手塩にかけて育てていた お姫様がおります。

その姫が、重い病にかかり その為に 岩手は手を尽くし治癒の方法を探します。 

ある易者に聞くと 「妊婦の生き胆を煎じて飲ませれば治る」と云われます。


その言葉を信じ その妊婦の生き胆を探して旅に出ますが、 妊婦の生き胆など そうそうあるはずが ありません 

放浪するうちに とうとう福島の二本松まで やって来ます。


そこの岩屋に住み着いていると、ある日、旅の夫婦が一夜の宿を求め やって来ます。


妻は身重で その岩屋で産気づき 夫が産婆を探しに行く留守に この時とばかり、岩手は妻の女を縛り上げて 生きながら その腹を出刃包丁で裂いて生き胆を取り出します。


その死に際につぶやいた妻の言葉。


「幼い時に別れた母を探して 旅をしていたのに、とうとう会えなかった」と岩手がふと見ると 見覚えのあるお守り袋を携えていました。 

それはかって岩手が娘に与えた物。

岩手は我が娘を惨殺した事になります。


娘は 手塩にかけた姫様と同じ年の 乳兄弟でしょうか?
(この辺りは詳しくわかりませんが その可能性は高いでしょうね。)


あまりの出来事に気が狂い その後は鬼婆となって、
宿を求めて来た 道行く旅人を次々に殺しては
その生き血を吸うと云う 毎日。

<小屋番の注。歌舞伎の内容はここから始まります。>

そこへ紀州の僧が、たまたま来合わせ、如意輪観音の白真弓の力で 
祈り伏せたと云う鬼婆伝説。


その菩提を弔うための塚が二本松の『黒塚』です。 

哀しいお話ですが、元を正せば 易者の無責任な言葉!! 

この恐ろしい性(さが)の伝説を舞踊化したのが 木村富子作 長唄『黒塚』


誰もが見るも恐ろしい こう云った素材までも、芸術としてしまうのが、
日本の文化 いやまして、伝統の発想の面白さ。 これぞ歌舞伎!!。


初演は、昭和14年(1926年)東京劇場で初代猿翁(二代目猿之助)さんが勤められました。

それ以来 二代目猿翁旦那(三代目猿之助) 右近さん 四代目猿之助さんと老女岩手 実は安達原の鬼女を勤められたのは 歴代のおもだかやの座頭格の人しかおりません

それだけに家の芸として 伝わっており これからも回を重ねて行く事でしょう。」
以上。

 山登りをしていて、どこかで見た様な気がします。長野県戸隠の山に登った鬼無里村にも「鬼女紅葉」の伝説がありました。鬼女が住んでいた洞窟にも行きました。これも「紅葉狩」の名で歌舞伎の演目になっていました。(渡辺 保『歌舞伎手帖』角川ソフィア文庫)

 なんで女ばかりが鬼になるのか。弱い立場になることが多い女が、裏切りに遭えば,捨てられ、乱暴されれば、怨恨、嫉妬が生まれる。それを晴らすことができなければ鬼となって復讐するしかない。現代では大抵はカネで精算することができるようになっただけ時代は進歩したのかも知れない。 

 ロシアン・バレエを取り込んだ舞踊劇という。だから古典的な時間の流れが止まったかのような歌舞伎のイメージに合わない。 舞台で飛び跳ねて、まさにバレエの躍動感がある。歌舞伎でも現代歌舞伎なのであろう。だから歌舞伎を古来の伝統から逸脱しない、古典というふうに思うなよ、という挑戦であろう。伝統とは少しづつ新しいものを取り入れて変革してゆくものらしい。それゆえに時代に取り残されずに継がれて行く。

 中日新聞+プラスの達人に訊けで、安達太良山の項で少し関連して書いた。
http://chuplus.jp/blog/article/detail.php?comment_id=827&comment_sub_id=0&category_id=240&pl=7742355195

三、楼門五三桐 一幕
(戸部銀作 補綴)

 これはもう様式美の極致。絢爛豪華な舞台。

夜の部は16時開演
一、春調娘七種 長唄囃子連中

 あまり印象に残っていない。

二、ぢいさんばあさん 三幕
(森鴎外 原作、宇野信夫 作・演出)

 これも香川照之主役で、松竹のホームドラマを彷彿させる。江戸時代が舞台なのでさしずめ藤沢周平の世界を見るような気がした。ちょっとした事件がきっかけで離れ離れになった夫婦の強い絆を描いた名作。

三、二代目 市川猿 翁     口上 一幕
   四代目 市川猿之助
   九代目 市川中 車

 口上を見るのは、昨年10月の顔見世に続き2回目。壮観です。

四、三代猿之助
   四十八種の内  義経千本桜 川連法眼館の場 一幕
市川猿之助宙乗り狐六法
   相勤め申し候

 これも昨年10月の顔見世で観劇した。人間に化けた狐の親子の愛情を描く。筋は同じながら、最終場面での宙吊りなんて有ったかな。