映画の記憶2007年05月17日

「にごりえ」1953年制作。今井正監督。樋口一葉の原作をほぼ忠実に映画化した。明治時代が背景になっている。文学座、新世紀映画社の共同制作という意欲作である。背景の音楽もどこかで聴いたなと思ってクレジットをよく見ていると団伊玖磨であった。「雪国」、「夫婦善哉」など良く似た旋律である。今井正監督は「ここに泉あり」(1952年)、「また逢う日まで」(1950年)に続いて三作目を鑑賞した。
 第一話 十三夜は丹阿弥谷津子主演。第二話 おおつごもりは久我美子主演。第三話 にごりえは淡島千影が主演というオムニバス風の展開。第一話の丹阿弥は初見である。
 第二話の久我美子は学習院に通学当時の1947年、16歳でデビューし、美しさだけでなく芸達者な22歳になっている。黙って店のお金をちょろまかすがだめな息子が借用証を置いて全額を持ち出してしまうためばれずにすむ。樋口一葉は救いの手を入れた場面であろう。映画でも久我さんを悪者にせず結末を迎えた。やれやれである。
 第三話の淡島千影は29歳の円熟した演技が光る。この役で後の「夫婦善哉」(1955年)の成功に結びついたか。1953年には超有名な「君の名は」にも出演し充実した年であった。
 脇役では文学座の総帥である杉村春子の演技が渋い。この映画のような暗い役でも小津映画で見る明るい役でもこなすこの役者さんこそ大女優といえる。
 
「ゼロの焦点」1961年松竹制作。久我美子主演。1931年生まれの久我美子は笑顔の可愛い美少女から成熟した30歳の演技派女優に成長した。
舞台は裏日本の暗い金沢と能登半島である。しかも冬である。原作の松本清張好みの設定らしい。
 この当時の北陸本線はまだSLであった。懐かしい気分にさせる風景である。荒々しい日本海とSLを対置して観光的な満足も味わえる。クルマもプリンス自動車製である。戦前の中島飛行機が財閥解体で数社に分かれてしまった。そのうちの富士精密工業が1961年にプリンス自動車と名前を変更。映画に使われたのはグロリアであろう。これも懐かしい。
 ドラマはサスペンスだけに混み入っている。展開は早いのであるが暗い話なので後味はよろしくない。清張ってなぜこんなに暗いんでしょう。

「酔いどれ天使」1948年東宝制作。黒沢明監督。志村喬主演。ぎらぎらしたチンピラ役はデビューして三作目の三船敏郎が演じた。強烈な個性が当って三船は一躍有名になり準主役から主役の座を得ていく。また場末の汚らしい場面ばかりであるが泥沼に咲く蓮の花のように美しい久我美子を配した。しかもセーラー服姿で。当時まだ17歳であった。この配役も成功の要因であろう。世界の黒沢への記念碑的な作品である。

「おはよう」1959年松竹制作。笠智衆、三宅邦子、久我美子、杉村春子など。だれが主演か分からないほど豪華な俳優陣である。新興住宅地で起こった小さな漣のようなできごとを丹念に追うストーリー。子供達のおならが楽しい雰囲気を盛り上げる喜劇タッチの映画。28歳の久我美子はこぼれるような笑顔で子供達に接する。当時まだ珍しかったTVを買ってくれとせがむ場面は私の子供の頃を彷彿させる。金持ちの家に観にいったこともあわせて思い出深い。

「青春残酷物語」1960年制作。大島渚監督。中座した。

「ある監督の生涯 溝口健二の記録」。1962年近代映画協会制作。新藤兼人監督。世界的な映画監督である溝口監督に関わった人々を取材したドキュメント。中々内容の濃い映画である。

「大人の見る絵本 生まれてはみたけれど」1932年松竹制作。小津安二郎監督。大半は子供が主役。ガキ大将の交代、大人社会特にサラリーマン社会の一端を子供に見られる、典型的なホームドラマであるが風刺が効いていて、なるほど大人が見る絵本だわいと思わせられる。初めて観るサイレント映画でもある。1929年には「大学を出たけれど」が制作されている。この言葉は映画の題名を離れて一般に流布している。

「小早川家の秋」1961年東宝制作。晩年の小津映画である。中村鴈治郎主演であるが原節子、司葉子、新珠三千代、宝田明、団令子、小林桂樹、森繁久彌、白川由美、浪花千栄子、杉村春子と豪華な俳優陣。だがテーマは老いに忍び寄る死。最後は烏や葬列、火葬場の場面もある。小津自身も1年後に他界する。杉村春子の名古屋弁はこなれていないのが気になる。

「浮草」1959年大映制作。小津映画でも異色の作品。三重県の鳥羽でロケ。浮草の文字通り旅芸人の物語。京マチ子、若尾文子、野添ひとみ、川口浩、中村鴈治郎、杉村春子、笠智衆、三井弘次、田中春男と大映の俳優陣は豪華である。特に黒川紀章の奥様になった若尾文子が素晴らしい。お色気があって女っぽい。中村鴈治郎が熱演。京まち子との台詞のバトルはクライマックスの場面。物悲しい旅芸人の世界を小津らしくきっちりと撮っている。

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