第28回名古屋大学博物館企画展「氷壁」を越えて -[ ナイロンザイル事件と石岡繁雄の生涯]を観る2013年11月06日

http://www.num.nagoya-u.ac.jp/event/special/2013/131105/index.html
 午前中で切り上げ、一仕事を終えて、名大キャンパスに行く。Pの手続きがちょっと煩雑だが、利用者は少ないので待つこともなかった。博物館があるとは知らなかった。豊田講堂の隣の目立たない建物に入る。
 展示は2Fにあった。順路に沿って見学すると石岡さんの生涯が理解できる。あのナイロンザイル事件がなければ幸せな人生を全うしていたんだろう。写真が伝える可愛い奥さんとの蜜月の時代は続かず、ナイロンザイル事件が陥穽のように待ち構えていた。暗転したのは37歳の時だった。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 鋭角の岩に当てると簡単に切断することも知らずに利用していた。事件の真相を分析し、ナイロンの性格にありと、公表すると登山技術の未熟を批判される。身内の不幸に加えて誹謗中傷にも負けず、真実を明らかにしてゆくのは学者というより、登山仲間をザイル切断事故の再発を防止したいとの願いであった。
 蒲郡での公開実験では鋭角の角を丸めるという卑劣な工作をする。その後の責任逃れの言説。また篠田氏を名誉会員にすることへの反対声明は私も居合わせた。歴史ではなく体験である。大きな会合で、一人一人に、文書を配布し、自分の見解への支持を主張されたが通らなかった。後に訴訟となって驚かせた。

 あれは何だったのだろう。このナイロンザイル事件の真相をもっともよく知るのは内側にいた尾上昇氏(元日本山岳会東海支部長、前日本山岳会会長)だ。事件の語り部を自称して憚らない。岐阜支部での講演を貼り付けておく。
http://www.ccn3.aitai.ne.jp/~sykt5022/08.11.14kouenkai.html
この最後の方に、人間の弱さが凝縮されている文があるので一部を転載する。
「ここでは、大企業の強大な力と大学教授、博士という権威で、都合の悪いことは闇に葬ろうといった意図がありありと感じられるのです。つまり、それは企業エゴ以外の何物でもないということになるわけです。ただ、そういう噂に戸は立てられないのでしょうね。世間にどんどん知れ渡っていきます。マスコミなどの追及があるものですから、ますます篠田さんの立場は悪くなってしまいます。とうとう篠田さんは最後に何を言ったかというと「あれは登山用のザイルの実験ではない。船舶やグライダーなどの牽引ロープの実験を目的にした」と言い逃れるのです。
 東京製綱と東洋レーヨンは黙り込んで、何もコメントしなくなった。その時、石岡先生の実験結果を素直に認めて、自分たちも公開実験をやって「ザイルは確かに岩角に弱いことはよく分かりました。我々も知りませんでしたが、まずかった。石岡先生も含めて本当に強いロープを作るように共同開発しましょう」位の姿勢を示せば、その先の流れは全然変わっていただろうと思います。
 そして先ほどの訴訟が不起訴になってしまう件ですが、その時の担当の斉藤検事という方が「あの実験は間違いではなかった。ああいう条件下でやったテストであるので、あれはあれで正当化される。名誉棄損には当たらない」という理由で不起訴処分にして訴えを退けました。一度不起訴処分になると、日本の裁判制度では同じことで再追訴することはできません。それで石岡先生は行く手を閉じられてしまうわけです。

 しかし、世の中ではやはり石岡先生の言うことが正しいのじゃないか、という評価が出て来ました、徐々に石岡先生の主張を支持する人たちが増えていくのですが、一方、登山界でも無知な人たちやそういうことにあまり関心のない人は、そのままナイロンザイルを使い続けました。その後も20件くらい墜落事故が起きて、死んでいるのです。次々と起きています。ほとんど夏の岩登りで、岩角に掛けられたナイロンザイルがプツンプツンと切れて墜落する事故が頻発します。」

 結局、篠田さんは企業に利用されて葬り去られた。名誉会員推挙はそんな篠田さんへの慰めだったと思う。だが、慰めて欲しいのは石岡さんの方だろう。こうして日本山岳会の汚点として今も残る。

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