富士山頂わが手の甲に蝿とまる 誓子2013年05月14日

 去る5/12、近江鈴鹿の未知の尾根・太尾を歩いた。竜ヶ岳登頂はならなかったが、程ほどの緊張感、総勢11名のメンバーの多彩さで楽しく過ごした。

 太尾の一角で、昨夜の残り物のはんぺんなど食べつつ、一休みしていたら、何ともう蝿が飛んできた。たんぱく質系の匂いをかいでどこからか飛んで来たのだ。五月の蝿と書いて、五月蝿い=うるさい、と読ませるが、もうそんな時節になったのである。

 表題の句は大御所の1人、朝日俳壇、中日俳壇選者を長く勤められた山口誓子の作品である。あんな高い所まで蝿が飛んでいくのか、そしてそれを五月蝿いといって払いのけたりせずに一句をモノにした。今すぐに思い出せないが、誓子は小さな虫の句をいくつか残している。
 誓子は三重県四日市市で療養生活する病もちだったが、40歳ごろだったか、御在所岳に登って健康に自信を得て以来、あちこちの山に登るようになった。ふらんす堂から『山嶽』の句集まででている。若い頃を知っている人には信じられないだろう。元気になった誓子を象徴するような俳句である。そして小さな生物をいとおしむ詩心はそのままに。