忘年山行2009年12月13日

 
時雨るるや孤島のごとき菰野富士

鈴鹿なる福王山は年用意

久々の顔も揃ひて年忘れ

山やなる我らは山で年忘れ

手作りの鍋を囲みて年忘れ

寄せ鍋やダッジオーブンの蓋をとる

夜遅く来し人待つや冬の宿

道のなき尾根を探るや冬木立

枯木立雑木疎林の尾根を行く

冬晴れに突き刺すごとき鎌ヶ岳

雲母峰きらきら光る冬の海

映画「通夜の客より-わが愛」鑑賞2009年12月13日

1960年製作。松竹。井上靖原作の「通夜の客」からあらすじを八住利雄が脚本。監督は五所平之助。主演は有馬稲子、佐分利信ら。
 原作の『通夜の客』はかなり以前に角川文庫で読んでいた。ある年、中国山地の山旅で道後山に登山し反対側に下山して、鳥取県側のその村にあったのが井上靖記念館だった。ここが通夜の客の舞台であり、映画化もされていると知って是非見て見たいと思っていた。偶然、TVで見ることが出来た。只、所詮はTVで佐分利信の主演しか記憶にない。それが12/6の有馬稲子を招いての小津を偲ぶ会がきっかけで有馬稲子と知った。
 松竹のWEBからオンラインで購入すると7日間は視聴できる。367円でレンタル店と変わりない。見るともう記憶にはないので初めて見るのと同じである。なんといっても49年前の28歳の頃の有馬稲子のきれいなことに驚く。日本映画盛んなりし頃の昔の女優さんはきれいな人が多かったが有馬さんは明眸皓歯という表現がぴったりの美人である。映画の中では殆どを着物姿で通す。もんぺ、スカート、戦中の服などもあるが。
 この映画はたしかに井上原作とはいうものの有馬稲子の魅力を全開させた気がした。佐分利信も脇に回った感がある。(「浮雲」における森雅之、「雪国」における池部良など)きれいな女優を最もきれいな角度から何度も描写している。五所監督は俳人だったそうだがそのせいか時折可笑しい映像もちらっと挿入してある。玄関の段差でずっこけそうになったり、弔問後の酩酊ぶりも可笑しい。
 なんといっても凄みのあるのは冒頭の10分間余りの映像であろう。佐分利信が亡くなって弔問の風景に現れる有馬稲子の美しさはこの喪服のシーンに象徴されている。管見だが沈痛な面持ちは他の有馬出演作では見られない。映像は一旦回想のシーンに切り替わるが設定では17歳の少女に扮した有馬稲子も可愛い。着物姿からかなり痩身に見える。おそらく少女らしさを出す役作りのために相当痩せたのではないか。
 中国山地の山村の生活を回想する形で2人の愛が描写されていく。甘える、拗ねる、怒る、悲しむ、喜ぶ、悩むといった様々な有馬稲子の演技が素晴らしい。ここまで書いてふと思い出したのは「雪国」(東宝1957年)の岸恵子である。脚本の八住利雄は雪国で脚色している。通りで展開が似ているはずである。
 2つの映画の共通のテーマは若い女性(共に水商売)が中年(共に妻子がある)のずるい男へ捧げる純愛、山村、花火の場面、酒のお酌のやり取り、和服中心の映像、鉄道の場面、雪山の映像など。そして2人の出会いの回想シーンなどの展開はまったく同じである。しかし、演技としては岸恵子の方が一段上に思えるのは白黒とカラーの違いであろう。演技力が映像の美しさに隠れてしまう気がした。
 共に現実にはありえない話に思えるが雪国にもモデルが知られるごとくこの作品にもモデルがあった。井上靖には無名時代愛人がいたのである。『花過ぎ・・・』という愛人が井上靖を書いた作品がある。この愛人の存在によって彼の文学が成長していったという。
 ともあれ、映像の90%以上に有馬稲子が登場する。紛れもなく代表作の一つである。DVDが販売されないのが不思議なくらい。