小屋番の山日記

　中日新聞から
「台風で酸欠か、ボラ１万８０００匹死ぬ　名古屋・天白川」の見出しでボラの語彙を見た。
「３０日午前５時４５分ごろ、名古屋市緑区と南区の境にある天白川の大慶橋付近で、大量の魚が死んでいるのを住民が見つけた。市の現地調査によると、天白川河口から３キロの範囲で、体長１０センチのボラなど約１万８千匹が死んでいた。

　市環境科学調査センターによると、はっきりした原因は不明だが、台風１２号の接近で川底のヘドロが巻き上がり水中の酸素が減り、酸欠になった可能性がある。以下略」

と報じた記事を読んで、咄嗟に浮かんだ句である。ボラは秋の季語。
　二上山は高岡市と氷見市にまたがる274ｍの山である。つまり冨山湾から小矢部川か庄川の河口付近であろう。いづく－と－も－な・し 【何処ともなし】のなしを略。どことも知れないの意。
　小矢部川の河口付近で水面に飛ぶボラが、二上山はどこだろうな、と凝人化している様。生真面目な句が多い普羅にしては、小動物を詠んで、可笑しさがある。

　普羅はボラが好きだった様で、他にも、検索すると「５７５筆まか勢」からいくらでもヒットした。

花火殻落ちて浮べり鯔の暗 　　　　　　前田普羅 新訂普羅句集
花火船かへり来れり鰡の闇 　　　　　　前田普羅
僧が買ふ鯔の敷きたる笹青し 　　　　　前田普羅 能登蒼し

他の俳人（知っている人）では

初潮やひそかに鰡の刎ねし音　　　 　　鈴木真砂女

利根の波鰡打ちあげし野分かな　　　　 皆川盤水

十人に鱸は刎ねる鰡は飛ぶ 　　　　　　　宇佐美魚目
・・・・名古屋の俳人。スズキもボラも河口付近に居る。出世魚と言う点でも似た者同士の魚種を二つも挙げて磯の香りが漂う句。

土臭き鰡(ぼら)にはあらずけふの月　　 服部嵐雪

秋日和鯔待ちやぐら浪に浮く　　　　　　 寺島初巳
・・・名古屋の俳人。堀川か天白川か。或いは庄内川か。ボラは釣り人に人気があるようだ。

船を憎みて日々鰡を釣る穂蓼かな 　　 長谷川零餘子

電球のちりちり泣けり鰡の湾　　　　　　　 宮坂静生
・・・・信州の山河が本拠地の俳人であるが、海に近い吟行地での一句。これは釣り船に乗船しているのだろう。

鰡さげて篠つく雨の野を帰る 　　　　　　　飯田龍太
・・・・甲斐の山河にどっしりと腰を落ち着けた龍太にもボラの句があるとは驚き。

鰡とぶや島と見紛ふ幾岬 　　　　　　　　　　安住敦

鰡を釣り周の天下を待ちにけり　　　　　 有馬朗人 耳順

鰡の飛ぶ夕潮の真ツ平かな　　　　　　　 河東碧梧桐

鰡跳んで松に懸りし十日月 　　　　　　　　木村蕪城

鰡釣に波の曙うまれけり 　　　　　　　　　　水原秋桜子

鯔はねて河面暗し蚊喰鳥 　　　　　　　　　水原秋桜子