ヤマケイ文庫 伊藤正一『底本 黒部の山賊 アルプスの怪』を読む2019年02月14日

 先日、丸善で購入。帰宅時に地下鉄車内で読み始めたら面白くて、一と駅先まで乗り越した。徒歩圏で良かった。夕食後、寝床に入ってからも一気に読み込んだ。最近にない面白い本であった。
 ヤマケイ文庫 2019.2.14刊行
 
 定本というのはこれまでに刊行された本があって、再編集されているということ。それは良く売れた本の証拠でもある。

①1964年 初版 黒部の山賊 アルプスの怪 実業の日本社

②1994年 新版 黒部の山賊 アルプスの怪 実業の日本社

③2014年 定本 黒部の山賊 アルプスの怪 山と渓谷社
内容紹介
 北アルプスの最奥部・黒部原流域のフロンティアとして、長く山小屋(三俣山荘、雲ノ平山荘、水晶小屋、湯俣山荘)の経営に携わってきた伊藤正一と、遠山富士弥、遠山林平、鬼窪善一郎、倉繁勝太郎ら「山賊」と称された仲間たちによる、北アルプス登山黎明期、驚天動地の昔話。
 また、埋蔵金伝説、山のバケモノ、山岳遭難、山小屋暮らしのあれこれなど、幅の広い「山の話題」が盛り込まれていて、読む者をして、まるで黒部の奥地にいるような気持ちにさせてくれる山岳名著の一書です。
 1964年に実業之日本社から初版が刊行されたときは、多くの読者からの好評を得ました。
 近年は、山小屋でのみ購入できたこの幻の名作が、『定本 黒部の山賊』として、山と溪谷社から刊行されることになりました。
新規原稿も一話加え、底本未掲載の貴重な写真も盛り込んでいます。
巻末には、高桑信一氏と高橋庄太郎氏による『黒部の山賊』へのオマージュも掲載。 以上はコピペ。

④2019年 ヤマケイ文庫 黒部の山賊 アルプスの怪 山と渓谷社

・・・・特に③はよく売れたようです。アマゾンのコメント90件は山岳書としては多い。しかも、③では①②で採用された畦地梅太郎の版画の表紙を変えています。多くの読者を獲得した勢いで、今年は早くも文庫化されています。しかし文庫化にあたっては初版の表紙にもどされました。

 著者の伊藤正一(1923~2016)さんは三俣小屋の利権を林野庁と争っていた記憶しかなかった。本書を読んで、松本深志高校卒(旧制)で物理学者を目指していたこと、日本勤労者山岳連盟の創立者であることも知った。
 社会の仕組みをよく知っていて、権力にただ盲従、服従しない点は岩波茂雄と同郷の人だけはあると思った。信州人は反骨の精神が強い。したがって左翼のシンパになったり、日本共産党の支援もあったかに思われる。

 今度の読書で何でこんなに面白く読めたのか。山を始めた当初は折立から太郎平を経て黒部五郎岳へ縦走、折立から薬師岳を経て立山へ縦走、薬師岳往復くらいしか山歴はなかった。鷲羽岳は遠い山であった。
 本書に書いてあるような黒部源流に奥深く入ったのは2009年の盆休みに雲の平を経て読売新道を歩いたことだ。同年の9月には上の廊下を突破した。2010年8月には赤木沢を遡行、2013年の8月にはついに黒部源流を遡行する。
 そして三俣山荘に宿泊した。この時はすでに同書が置いてあり販売もしていたように記憶するが、購入にまでは至らなかった。伊藤さんは2016年に死去されたからこの年はまだ存命だったことになる。
 要するに雲の平に象徴するような別天地を知ったら黒部の魅力は忘れえないものになる。伊藤さんは黒部の語り部たらんと本書を著したのだ。非日常の世界を平易な文章でわれわれ都会人に知らしめた。
 そうか、柳田國男の『遠野物語』『山の人生』も怪異な話だった。黒部源流に人生を送った山男・山賊らの物語なのである。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
日本で一番美しい山は?
ヒント:芙蓉峰の別名があります。

コメント:

トラックバック