渾身のスキー登山・奥美濃の黒壁山2011年03月30日

稜線から見た烏帽子岳
 3/29は岐阜県の坂内村の道の駅にテントを設営して仮眠した。3/304時起床。白湯を飲み、買っておいた弁当を食べられるだけ食べる。テントを撤収するとフライシートの内側には霜が付いていた。随分冷えたようだ。昨夜は2℃だった。山麓のは10℃との気温格差と日中の寒暖の差が大きい。
 春星が瞬く薄暗い村の中を走って上流の川上へ行く。R303は立派な高規格の国道に生まれ変わった。山裾にひっそりとある川上の集落を迂回して滋賀県へと向かう。夜叉が池への看板で右折するとトガスから下りてくる尾根の末端の発電所に着いた。
 終点の広場は産業リサイクルの工場になっている。橋のすぐ先で雪を盛って通行止めの表示がある。神岳ダムまで除雪はしてあるがデブリを恐れて一般通行はまだ先のようだ。
 我々は少し後にある夜叉が池の竜神を祭る神社のPに車を置きに戻った。スキー板やザックは「登山口」にデポして。ヘッドランプが欲しいほどの暗さも次第に明るみを増して5時半出発のころには要らないまでになった。夜が明けたのだ。天気は上々だ。
 重いスキー靴は抱えたり、ザックに括りつけたりしてスニーカーで歩いた。路面は凍結している。雪がないだけマシだ。モトクロスの跡を過ぎていくつかの堰堤をやり過ごす。所々にデブリや土砂崩れがあり、道を塞いでいる。これがあるうちは全面開通はまだまだだろう。そうこうするうちに神岳ダムに着いた。6時半になった。ここで除雪は終わっている。スニーカーはデポしてスキー靴に履き替えた。矩面が雪で覆われて斜面になっている。いやなところだ。慎重に横切った。すると広い雪原になり、椀戸谷が前方に広がった。杉の倒木をまたいで橋を渡り、谷の右岸でスキーを履いた。
 すぐにデブリがあるが雪が柔らかく大した困難は無い。やや平面に近い雪の林道を進む。雪質は悪くない。わずかながら高度が上がる。すると雪も想定以上に多く感じた。大きなヘアピンカーブを過ぎて地形図でチエックする。谷を渡るとすぐ先でまた橋を渡るが幸い谷にはスノーブリッジができていてショートカットした。
 雪崩跡と見られる跡をやりすごしながら林道へ上がる。そこから見える谷は上部まで薮や岩も無く絶好のゲレンデと見做した。この右の尾根をルートにとるか、林道を行くか協議したが林道を行く。林道は谷を隔てて右の尾根に達したところで終点になった。
 やや急な尾根をビンディングの踵を上げシールを効かせて登った。杉の木立もやがてブナの木立に変わり、尾根も広くなった。傾斜は急なままだが高度感があり、近くの山々が顔を出し始めていい感じだ。尾根が広くなって傾斜も緩んだ。稜線も近いことが予感できる。
 ブナの木立も疎らになり、滑走の快適さを想像した。1100mの分岐点まで来ると黒壁山の容姿が見えた。堂々たる三角錐の白い山である。右手には烏帽子岳がよく見える。実はこの烏帽子に登る際に発見したルートであった。あの時も春の星が瞬く中を登り、稜線を越えて登頂した。しかし心はより立派な山容の黒壁に向けられていた。あれからもう十年は経過しただろう。年長のNさん、Dさんも山岳会を辞め、登山からも離れていった。相変わらず自分だけはしつこく追いかけている。
 分岐からはやや下り気味にシールのまま滑降して鞍部から登り返した。1200mの旧徳山村との境界の稜線を経て再び130mほど下降した。この鞍部付近は下から凄い雪庇が発達しているのが見えた。ブナの木立から2、3mくらいのところでは亀裂が走り、崩壊が近いことを予感できた。
 山頂はすぐに迫るが急だからスキーを外すタイミングを考えながら登る。ちょっと恐いような急斜面を強引に登りきると山頂だった。時に11時40分だった。6時間超。渾身の登山だった。
 この山頂も何年ぶりか。ある年の4月、三国山へ行くつもりが夜叉が丸のピークから見た黒壁への稜線が白い街道に見えた。同行者を促してUターンし、三周ヶ岳に行く途中の分岐点から残雪を踏んで黒壁に登ったのだった。登り難い黒壁に登れて大喜びだった。今も昔も登り難い点では他の山の追随を許さない。同行のNさんは去り、Fさんは昨年12月ウツ病の病苦から逃れたと思った矢先に亡くなった。
 山頂の積雪は5mから10mはあるだろう。山頂標を括りつけた樹木が3mほど下に見えるし、北面には樹木が露出していない。はるか下だ。展望は1級だ。近くの三周ヶ岳が立派だ。美濃又丸、大河内山、笹ヶ峰と続く越美山地の連嶺。遠くには部子山らしい山がかすむ。能郷白山は見えず、蕎麦粒が立派だ。金糞も霞んでいる。
 微風が寒さを呼ぶ。そろそろ下山をと促すも去りがたい、そんな雰囲気が漂う。シールを剥がし、ビンディングを固定する。スキー靴のバックルを締め上げ、足元を固める。ちょいと軽く滑ってみるとずらしても抵抗はない。絶好のコンディションだ。
 みなの準備もOK。12時過ぎ、ベテランのYさんがトップで行く。あっという間に一段下の台地から仰いでいる。私も続いた。W君も来た。鞍部へは何とか急斜面を滑降できた。板を外して1200mまで登り返す。また板をつけて1200mから登ってきた尾根を滑降してゆく。先ほどまでいた黒壁があっという間に遠ざかる。
 決して素直ではない尾根の滑りだが雪質がほどほどの寒さで締まっている為に快適なのだろう。ブナ林を抜けて滑走は続く。林道から合流した分岐点を右に振った。雪庇に乗らないように慎重に見ながら下る。やがて林道から見上げた谷のカール上部まで来た。まだ1時間とは経っていない。
 ここだ、ここだと確認して思い思いに滑降した。午後に入って雪質はやや重いが抵抗はない。かなりの急斜面だが恐怖感はない。それはカール状の地形ゆえか。昔風にいうと振り子沢というか。だからここもあっという間に滑降してしまった。林道に降り立った。
 ショートカットした谷は戻らず林道に忠実に下る。傾斜が少ない道ではあるが何とか滑ってくれた。大きなデブリも無く、椀戸林道を滑りきった。
 神岳ダムは雪解け水を湛えて不気味な深い色の湖になっていた。湖畔を歩いて除雪道路まで戻る。ここでもまだ2時間もかからない。後はスニーカーに履き替えると40分で登山口に着いた。神社のPでは猟師という初老の男性が雪掻きをしていた。今年は猪や鹿が沢山獲れたとか。でも脂身がなくて(まずい)肉しか取れなかったと嘆く。雪深い山奥深く鹿を追いかける村の山人の生活を偲んだ。

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