阿久悠著『清らかな厭世』を読む2011年07月27日

『清らかな厭世』新潮社 2007.10.20
 こんなアフォリズムの書まで著していたんだ。アフォリズムというと芥川龍之介の「侏儒の言葉」を思い出す。小津安二郎の愛読書だった。まだ全部読みきらないが心に響くワンセンテンスを引用してみる。
「人間力は
人と一緒に暮らす力
人力は一人で生きる力」

伊豆半島に住まう著者は自宅が台風で甚大な被害を受けた体験に基づく話。今起きている東日本大震災のがれきの片付けの困難さを想像するとこころにグサリと突き刺す。警世家としての阿久悠の一面を知る。

--ぼくには、雨風の中を屋根に上がって、吹き開けられた穴を塞ぐ力がない。引きちぎられた電線を繋ぐ技術も、断水した水道の代わりに、生活水を手に入れて運ぶ能力もない。また山のような廃材や瓦礫を分別しながら処分する腕力もない。
 ぼくは結構人間力はあると自惚れていたのだが、今度ばかりは、人間力ではない人力に欠けていると、痛感させられたのである。
 中略。
 現代は、社会も人間も、どこにいてどのような人生観を持とうが、都市型社会生活になってきて、他人に依存し、他人に振り分け、そのことがお互い様で成立させる人間力の時代である。そのことが徹底し過ぎ、人力を余りにも忘れすぎたのではないかということである。
 中略。
 何かがあったら、すぐ電話を、二十四時間お助けしますというシステムに包まれているのは心強いが、かといって、過信はよくない。中略。電気も消えるし、電話も通じなくなる。そんな時のためにまずは人力、自らの力と思ったのである。

 2007年8月1日死去。享年70歳。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
日本で一番美しい山は?
ヒント:芙蓉峰の別名があります。

コメント:

トラックバック