赤谷偵察行2006年09月17日

 17日から18日にかけて奥美濃の赤(アカン)谷を狙っていたが天気図に台風が現れて躊躇していた。相棒のW君が先日雨の休日を利用して9/25から試験湛水の開始される徳山ダムの湖底となる部分を走って入渓地を偵察してくれた。多分入山禁止と読んでいた私は悲観的であったからこれは朗報と喜んだ。だが台風とあっては誤魔化しができない。
 16日(土)は終業が遅れて6時半になってしまった。急いでW君宅に走ったが出発は9時頃になった。この時点ではまだ雨模様ではない。ところが地道を走って揖斐川町のコンビニで買い物を済まし旧久瀬村のトンネルを潜ると雨になっていた。奥美濃は気候上は福井県なのである。とすれば降雨率80%であろう。美濃なら30%くらいだったが。
 奥美濃では「細引きのような雨が降る」と言われるが私も経験がある。クルマのワイパーが使えず待機させられたことがあった。幸いまだ台風は東シナ海上である。横山ダムから先は間欠ワイパーから連続になる。そしてダム堰堤だが暗闇とガスで何も見えない。堰堤を越えて湖底に下る。西谷川へは一般車は入山禁止の検問があった。
 本郷への橋を渡り一路櫨原か塚の「公団住宅」を目当てに走ったがそれらしい建物はなかった。W君は確認済みであったが9/22から道路の付け替えが行われるのに伴いすでに撤去されていた。雨の深夜ではテントを張る気になれず空き家を探した。ポンプ小屋には蝙蝠が居て追い出すわけにもいかずマイカーの中で仮眠した。
 9/17の早朝もすっきりはせずゆっくり支度をする。台風は確実にこちらに向っている。一時的に晴れてもそれは偽の晴れ間である。結局は偵察行になった。入渓地点には長野ナンバーが1台。釣師であろうか。
 ウソ越えまで走るがガスで何も見えないままだ。ツカタンド谷で釣師を2人見ただけの寂しい所だ。ウソ越えから赤谷に沿う林道を下って帰りは谷を遡行することにした。
 薄の穂波たつ林道の廃道を下るが踏み跡は鮮明である。廃道にありがちなでこぼこ道ではない。赤谷を渡って右岸を下るが倒木以外は総じて歩きやすい。抉れて道がなくなったところもある。周囲は2次林と見られる。原生林は皆伐したのであろう。戦後6回も大洪水に見舞われた原因がここにある。林道工事の土砂も谷に捨てたから川底が上がる。水位も上がる。
 右に吹き付けた壁のところで小沢を経て赤谷に下った。そこにケルンがあり、おそらくミトダニから笹ヶ峰に登る登山者の少なくないことを物語る。我々はここで持ってきた渓流釣を試みたがさっぱりであった。石の裏をみると川虫は相当豊富で魚はいそうだ。W君は得意の潜りで淵を潜って探ったが2尾居たという。下流でも4尾見たそうだから居ることは居る。腕次第である。
 諦めて納竿した。素人のにわか渓流釣師では太刀打ちできないほどすれているのであろう。高倉林道を作る際にすべての土砂を谷に捨てたらしく赤谷の源流部は滝は一切ない。すべて埋められた感がある。おかげでらくらく元の渡渉地点に戻れた。
 ウソ越えで帰り支度しているとダム方面から続々クルマが登ってきた。峠を越えて福井へ抜けるのであろう。空には若干晴れ間がのぞいている。天気は持ち直したであろうか。入渓しておれば今頃はこの辺などと尚も未練がある。そこを断ち切るように冠山峠にも立寄って名古屋に帰った。
 櫨原の湖底になるところでラーメンを作って食べていたら地元の元住民らしいグループが続々参集した。そこは望郷の広場、船着場になる、とか話が聞こえてきた。遊覧船も浮かべるのであろうか。愛知県の鳳来湖でも建設から3年くらいはボートを浮かべたりして観光客で賑わったが次第にあきられて消滅したらしい。是非止めて欲しいものである。
 東洋一とかいうキャッチは魅力的であろうが1年を通じて天気が悪い、夏はアブ、ブヨの大群が発生する。熊もいる。そんな荒っぽい観光地はすぐに自然に帰るだろう。
 ラーメンを食べ終えると雨が降ってきた。クルマに戻ってまた走る。本郷の役場跡でも道草を食った。映画「ふるさと」の石碑が抜き取られていた。加藤嘉、長門裕之、樫山文枝、前田吟、樹木希林ほかの出演だった。特に加藤嘉は良かった。なりきっていた。又見たいとDVDを探したが見つからない。
 白山神社の石碑にも寄った。ここで昔来た際、老婆は徳山の大火を話してくれた。『徳山村史』の年表には昭和22年に出火し50戸が全焼したとある。恐ろしい記憶として人に語らずにはおれないのであろう。
 もううす暗くなった。二度と来ることはない湖底を後にした。雨は本降りとなり、入渓しておれば今頃沢の中で台風の到来に不安な一夜を送っているだろう、と慰めた。ガスの中に巨大なコンクリートの橋脚と長い橋(R417)が浮かび上がった。来週はあそこを走ることになる。
 ダムを過ぎて旧藤橋村を通過。久瀬村のトンネルをくぐるとあら不思議、雨が止んでいた。なんてことだ。天気の分水嶺は久瀬村のトンネルのある山なのである。