「岳人」08年5月号を読む2008年04月16日

 余り買わなくなった山の雑誌である。店頭で「ヤマケイ」を手に取るが心にしみるような記事は見当たらない。池内紀の本の紹介欄で早川孝太郎の『猪・鹿・狸』が採り上げられていたことが唯一目に留まる。
 「岳人」はどうか。特集の中に守門黒姫を紹介した記事があった。元会員のO君が在籍する会の会長さんが執筆している。つい最近行ってきたばかりの守門岳であるが残念ながら山頂は2座とも踏んでいない。ちなみに「岳人」の1998年5月号の守門岳では5月下旬でも滑走可能らしいからGWなら丁度いいのだろう。我々はたぶん”はしり”を味わっているかも。例年殆どシュプールを見ないのに今年は沢山人が入っていた。この記事でまた増えるだろう。Wさんの話では大岳よりもここの方が山スキーコースとして優れているとのこと。このブナの林間滑走はまったく飽きることがない。 
 かわら版の中井正則氏の投稿も興味深い問題を提起している。だが観光登山者のことは従来から言い古されたことである。今はそれに加えてベテラン登山者の遭難多発傾向が加わる。若いときから経験を重ねてきた登山者も年には克てず、遭難事故を起こす。所属の会ではお題目的な遭難対策でなく一歩踏み込んで遭難救助委員会を立ち上げる準備をしている。また私もヤブ山登山の実地体験とツエルトビバークの訓練を計画した。防衛的な登山と事後処理の二面から対応する。
 理想は道のない山でも地図一枚に想像力を働かせて入山し山頂を踏んで下山する。迷ってもあわてないで下山する力を養う。こうして道のある名山のみを歩くだけでなく道のない無名の山、三角点だけの山でも何とか一日楽しめればガイドブックなんかいらない。むしろガイドブックは掲載されない山やコースを探すために利用したい。そうあってほしい。
 尚中井正則氏を検索したら10年前にヤマケイから『山のトラブル体験マニュアル 登山事故から身を守る最善策Q&A』を出版されたことが分かった。著者紹介には1943年生まれ、信州大OBで公立高校教師、フリーで全国の山を登る、とある。投稿欄には64歳とあるので同一人物であろう。
 本書は店頭で立ち読みした気がする。岩崎さんの登山入門と同じで余りに詳細になり過ぎて読む気にならなかったように思った。トラブルなるものは一挙に起きるものでない。やっぱり先輩と交流しながら徐々に経験を積んで行くのが一番である。ゆえに自分のメンター(mentor)を探すことがより重要である。
 メンターとはあるサイトからコピーすると

・ギリシャの詩人ホメロスの書いた叙事詩『オデュッセイア』に登場する老賢人「メントル」からきた言葉です。

・その意味は、賢明な人、信頼のおける助言者、師匠などで、一般には「成熟した年長者」をさす言葉として使われています。

 登山はマス教育には向かない面がある。登山教室では克服できない。一対一で折々助言を得られたらどんなに素晴らしいだろう。山岳会もそんな機能が働けばいい。名古屋山岳会を創立した跡部省三さんの「岳人」などに投稿した記事は今読んでも一々含蓄の深いものであった。登山家・今西錦司の後輩達の話では我々が困っている時にさっと知恵を授けてくれた、という。彼こそはメンターであったわけだ。だから晩年まで登山の手助けをするひとがいたし死後も親しまれている。
 他にバックナンバーで昨年の10月号が完売していることに気づいた。もっとも山のにおいが希薄な号(紅葉の山、新雪を踏んでとかの記事がない)であったと思うが。山の本が売れない時代にあって関係した一人として半年で売り切ったことは爽快な気持ちである。