茶の花や退きどきを知る為人 鷹羽狩行2017年06月25日

 俳句文庫(平成5年、春陽堂)鷹羽狩行集から。
 主な略歴は以下の通り。俳人協会のHPから。
1976年 「毎日俳壇」選者
1978年 「狩」創刊、主宰
1993年 俳人協会理事長。「東京新聞」俳句欄選者(9年間)
2002年 俳人協会会長。勲四等旭日小綬章。
2015年 日本芸術院賞受賞、日本芸術院会員
2017年 俳人協会名誉会長、俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会名誉顧問

 今年で87歳と高齢ながら現代俳人のトップリーダーとして活躍する。掲載の句は意味深長。為人はひととなり、とルビがある。要するに性格である。いつまでも権力の座にしがみつく人が多い。退け時は実は難しいものである。大抵は花道をつくって引退させるように仕向ける。その微妙な人事の妙を俳句に詠んだ。
 今年4月で名誉会長に退くことがあった。春陽堂俳句文庫の略年譜によれば47歳で会社を退職して俳句専業になったとある。以来40年間俳句のプロとして生きてきたわけである。もう充分に句業を果たしたということか。とはいえ、句は若いころのものだ。若くして人生を達観していたのだろう。
 特に日本芸術院会員は価値が高い。俳人では3人しかいない。これに選ばれたら「退きどきを知る」ことになる。
 この俳人の特徴はや、かな、けりをほとんど使わないことである。だから掲載句は例外中の例外である。一句の完成度を求めて推敲をするそうだ。散文の断片に陥りやすい危うさを避けながら大向こうをうならせる句を発表してきた人らしい。

   叱られし星か流れて海の上      鷹羽狩行

 こんな句を見ると

   海に出て木枯らし帰るところなし   山口誓子

 のオマージュかなと思う。師の名句を模倣して模倣の跡を消す。

   十薬や才気ささふるもの狂気     鷹羽狩行
 
 いわゆる機知に依存してきた俳人である。機知=観念は50年もたてば何のことか意味不明になる。しかし、少しユーモアに傾いた句に人気がある。優しいまなざしが誰にも共感を呼ぶ。この俳人の真骨頂というべし。

   天瓜粉しんじつ吾子は無一物    鷹羽狩行