低山学入門3・・・山域別の山岳事情と遭難事例2016年12月02日

    概観・・・東海地方の山岳事情と遭難事例
〇愛知県での遭難事例は殆ど聞かない。近年では三ッ瀬明神山の鎖場で転落死された1件あるのみ。八岳山ではまれに長野県側への道迷いがあると聞く。
愛知の山は標高差が低く遭難の危険性は少ない。
 初心者が西三河や東三河の低山のハイキングから入門するには最適である。
 奥三河には東海自然歩道が貫通しているので道標があり整備が行き届いている。
 冬は冬型気圧配置になると晴れる確率が高い。 

〇三重県の遭難は鈴鹿山脈において年間50件前後と多発している。死亡事故は5件という年もあった。鈴鹿山脈は高速道路に囲まれてアクセスが格段に良くなった。東海地方では日帰りで登山を楽しめるため登山者の人気が高く事故も多くなる傾向である。
 御在所山では岩登りに関する転落死亡事故が多い。釈迦ヶ岳では行方不明事故が2件あった。1件は捜索の結果遺体で発見された。尾根からの転落と見られる。1件は不明のままだ。御在所山でも1件行方不明者がいる。
 藤原岳から御池岳にかけては道迷いが多い。御池岳ではボタンブチからゴロ谷へ転落死した例があった。T字尾根でも事故例がある。御池岳は山上部が広く、登山道が急斜面という特徴がある。ルートファインディングに慎重さが要求される。初心者同士で行くには厳しいので経験のあるリーダーのもとで行動したい。

〇台高山脈では北部の薊岳での道迷いが大きく報道されて記憶に新しい。南部では仙千代ヶ峰の行方不明事故がまだ発見されていない。山頂付近まで植林がされて枝道が多いために迷いやすいかも知れない。初心者だけで入山しないことだ。
 大杉谷では転落事故が発生しているので慎重な行動が必要だ。鎖や階段で整備されているとはいえ、谷筋や滝の高巻には細心の注意が要るので初心者向きではなく、しっかりしたリーダーのもとで登山することだ。どちらかと言えば中級者以上の向きといえる。
 この地域は冬型の気圧配置になると晴れる確率が高い。逆に夏は弁当忘れても笠忘れるなというほど雨が多い。

〇養老山地は養老山を中心に登山道が整備されている。養老の滝からの登山道は傾斜がきつく転落に注意したい。過去には転落死があった。鈴鹿と同様の断層山脈の常で東側の傾斜がきつい。笙ヶ岳周辺では道迷いの事故があった。登山道が分かりにくいので初心者だけの登山は注意すること。

〇布引山地は経が峰は初心者向き、登山道が厳しいので中級向きの錫杖ヶ岳などが登山の対象である。特に遭難の事例は聞かない。

〇岐阜県は美濃の西は伊吹山、東は恵那山と名山に恵まれた地域である。恵那山は過去に度々遭難があった。行方不明と長野県側では増水した川の橋を渡る際に落ちて流されて死亡した事例があった。水が引くまで待つか、ザイルを持った人に確保してもらう、或いは救助を待つ。危険性が低くなるのを待つ辛抱がいる。
 中濃では展望の良い高賀山が良く登られる。東濃は低山の宝庫でピークハントにもってこいの山域。阿寺山地は多少手強いが危険という山はない。但し山が深いので時間がかかる。
 盟主で最高峰の小秀山では出発が遅いために下山中に日没となり、ライターの灯りで歩行中に転落死した事例がある。十分な時間を見込むこと。この山も断層山脈で岐阜県側が切りたっている。

〇奥美濃は揖斐川源流域と長良川、板取川、吉田川流域を指す。登山道が整備された山は少なく、ヤブ山と言われるように道の無い山もまだまだ多い。玄人向きの山域である。夏は沢登り、冬は山スキー、わかん山行も楽しめる豪雪地帯にもなる。
 登山道がはっきりしているのは夜叉ヶ池くらいまでで、池から派生する登山道は整備状況が分からない。刈り払いしても5年位でネマガリダケが道を覆うようになる。三周ヶ岳、三国ヶ岳、左千方は事前に調べてから登りたい。夜叉ヶ池の岩壁では過去に転落死があった。左千方への道迷いで時間がかかり夜間の下山を強行したためと見られる。
 冠山、金草岳、能郷白山は良く整備されている。
 沢登りの事故はかなり多い。一番多いのは銚子洞で関西の人を中心に10名以上は死んでいる。銚子滝は30mだが高巻は70mの落差がある。岩ではなく、木の枝があるために懸垂下降しないで素手で下降を試みて枯れ枝をつかんで折れて転落死という事例を聴いた。北アルプスなら慎重に事を運ぶが低山だと軽く見るからだろう。木は折れるし、岩は崩れることがある。
 赤谷でも事故死した人の遭難碑がウソ越えにあったが今は見当たらない。道の無い釈迦嶺でも最近事故が発生している。
 金ヶ丸谷では過去に転落死があった。門入にまだ人が住んでいたころ住民から聞いた話では、京都の人が夜叉ヶ池から下降を企てたが帰宅しないので家族が地元に捜索してもらったら谷の中で死んでいたという。ダム湖ができて今は廃村になったが谷は生きている。
 虎子山では過去に道迷いの事故があった。登山道がはっきりしないので下山で間違えたがヘリが出動して無事に救出されている。
 どの山も標高は低いが山が深く、最近は廃村となって事情を聴く住民が居ない。十分な調査といつでも引き返す柔軟な気持ちが大切だ。 この山域は登山道を歩いて年季を重ねただけのベテランよりも総合的な登山技術や知恵を持った登山者が本気になって取り組むべきだ。

〇静岡県では駿河の竜爪山に事故が多いと聞く。勝手につけられた枝道へ迷うそうだ。地形図を読んでルートを見極めたい。
 遠州地域では南アルプス深南部を抱えるので初心者は近づかないこと。熊の生息域である。しっかりしたリーダーのもとで慎重に登りたい。

〇長野県でも木曽山地南部の山々は整備がされて登りやすくなっている。恵那山トンネルを抜けると伊那地域になる。中央アルプスの前衛的な山が多い。遭難事例は聞かないが入山者が少ないこともある。山が深いので初心者だけで行かないこと。熊の生息域である。名古屋からの移動時間や登山の時間もかかるので経験のあるリーダーのもとで慎重に登ること。