小島烏水と凡兆岩2009年07月21日

 小島烏水『アルピニストの手記』(平凡社ライブラリー951)の目次には「飛騨山中にある凡兆の句碑」とある。
 P178に「だが、飛騨山中における凡兆の「鷲の巣」ぐらい、四囲の自然と情景が融合しているとおもわれるものは、おそらくないであろう。」と述べている。すると本人が見に来たかのような書き方であるが「しかるに、さも見てきたように、岩の所在地や、四囲の状況を、ここにしるすことを得たのは、一に小峰大羽氏の示教による」と書いている。
 いかにも小島らしい文献の用い方である。明治三十三年以来乗鞍岳に登山するために初めて越中から飛騨入りしていらい、数回に及んだという。「私は山に夢中になって「鷲の巣」の詞書にある籠の渡しの旧跡を、通行しながらほど遠からぬところに「文字書き岩」のあることを知りもせず素通りしてしまった。中略。本文は自然その懺悔のために書かれる。とまあ、大上段に構えたものです。
 県指定とはなったがかつて地誌『飛騨山川』(明治44年発刊)に「西漆山のところに、俳人凡兆が俳句を刻せる字書き岩というものあれど、今は訪う人もまれなり」とあるそうだ。当時でも人気はなかったから今はもうすっかり忘れられた句碑になった。
 登山家の烏水がなぜこんな句碑に興味を抱いたのか。高山市図書館のサイトからコピーさせてもらうと
「医師にして郷土史研究家の岡村利平が明治44年に住伊書店から出した『飛騨山川』は、飛騨の気候風土、名所旧跡、物産などを紹介したもので、小島烏水や垣内松三が序を寄せるなど、発行以来、地誌として評価の高かったものである。この中で利平は、それぞれの地にゆかりのある史書や文人達の詩歌、地理に関する所見などを取り上げており、文学的、博物学的にも大変興趣のある内容となっています。」
とあるので登山家というよりは旅行家の一面があり、それなら見逃すことは悔しかったとは思う。

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