「春宵十話」 数学者と情緒2006年04月22日

 最近山岳作家・故新田次郎の次男で数学者の藤原正彦氏の「国家の品格」がベストセラーになっているらしい。店頭で手にして目次を読む限り目新しいことはないので元に戻した。情緒という言葉に以前何かで読んだ記憶があった。
 左様、やはり奈良女子大学教授で数学者であった岡潔著「春宵十話」に似ているのである。かつては数学者と俳句の季語の取り合わせが面白そうで読んだ。角川文庫にある。ここで語られるのは情緒である。1943年生まれの藤原氏と岡潔氏(1901-1971)に接点はあったのだろうか。そう考えて検索すると以下の文が見つかった。【聞き手/桑原政昭(本誌編集部)】(「原子力文化」2002年7月号巻頭対談より抜粋)

―― 今、日本は、何にもひざまづかなくなってきたような気がします。

藤原 そうなんですね。日本でも数学の大天才の岡潔先生は毎朝、数学をする前に一時間念仏を上げていたといいますね。

他にも橋本裕の日記から

岡潔さんの文章はあくまで論理的でありながら、そこに深い情緒を湛えている。その視線は澄んでいて、物事の本質にしっかり届いている。岡さんならまちがっても、「張り倒す」などという品性のない発言はしないし、もとよりそうした発想もしないだろう。私の見るところ、藤原正彦さんは岡潔の不肖の息子といったところだ

甲斐公義の日記から

■[本]藤原正彦,「国家の品格」読了
数学者である藤原正彦先生の書かれた本。段々岡潔先生に似てきたようにも感じる。数学は情緒と深い関係があるという部分など。

 岡さんは芥川龍之介や寺田寅彦を愛読し漱石を間接的に敬愛していたという。3人はいずれも俳句を愛していた点で共通している。春宵という言葉が出てくるのも自然な成行きであろう。
 さてその「春宵十話」がいつもの手元の本棚にあるはずがない。よくよく探すと講談社文庫「日本のこころ」(S54)に収録されていた。またS54の「対話 人間の建設」が出てきた。小林秀雄との対談集である。無粋で無骨な山やの自分の書棚になぜこんな本があるのか不思議である。小林は深田久弥の親友であったことや生真面目な人に似合わず志賀高原あたりの抱腹絶倒の文を読んだ記憶もあるが。深田の山仲間だったというのは意外であった。