蛭の俳句 ― 2009年05月26日
本格的な山蛭のシーズンとなった。「岳人」の夏号では山蛭を特集するようなので期待したい。
かつて渡辺立男句集『薄雪草』(平成4年)の中に
山蛭や鉈目のふかき栂の幹 渡辺立男
を見つけて南アルプスの深山あたりを彷彿とさせる手腕に感心したことがある。山蛭も句材になりうると思ってきたが佳句を得るのは難しい。長々と写生などして居れない。取り付かれたら冷静では居れない。
ところで一般の俳句は蛭をどう詠んでいるか検索してみた。
桑名山歩会のHPにヤマビル雑記があり、とても詳しいので俳句関連のみコピー&ペーストさせてもらった。ちなみにアルペンガイド『鈴鹿の山』の著者山口温夫はこの会の会員である。以下*は筆者のコメント。
蛭ひとつ水縫ふやうに動きけり 花 史
*よく写生している
しみじみと手洗ひ居れば蛭来る 中村汀女
*だから岩清水なんかで水を汲む際は注意しないと蛭が紛れこむからなあ
鎌研ぐや蛭泳ぎ来る遠きより 原 石鼎
*石鼎は奈良県の吉野に住んだ俳人。「頂上やことに野菊の吹かれおり」が有名。あそこも蛭は多い。そうかそうかと思う。
蛭の血の垂れひろがりし腓(こむら)かな 富安風生
*たしか逓信省の官僚でしたか。写生俳人らしい句です。「まさをなる空よりしだれ桜かな」が有名。豊川市に近い一宮町出身。
人の世や山は山とて蛭が降る 小林一茶
*「露の世や露の世ながらさりながら」と子の死を悼んだ一茶。言葉にならなかったのは分るが掲示の句は投げやりな気がする。
山深し落ち葉の空に蛭の降る 几 薫
*高井几薫は江戸時代の俳人。蕪村の弟子にしては今一理解不明。
時化(しけ)の樹海 山蛭這ふを自在にす 金丸鉄焦
*山やさんの作品でしょうか。リアルですね。
山蛭の縞鮮やかに霧流る 阿部?人
*うーん、これも良く見てるなあ。
山蛭が俺らの言ひ分聞いてくれ 詠人知らず
*血を吸うことしかないでしょうに。
見下して蛭をさげすむことは易し 山口誓子
*四日市市に長年療養のために住んだ。JACのマナスル初登頂に刺激されてか、御在所山に自力で登山し、病から脱した。小動物を取り上げた俳句が結構ある。蛭もあったんだなあ。
###########################
HPの続き
はじめに
いわゆる血吸いビルと人間とのついあいは、人類文明の興隆とともに何千年ものあいだつちかわれてきた長い歴史をもつ。 たしかに、「ヒルみたいな」という言葉は、今も昔も、「しつこくまとわりつく」、「たかって他人を食いものにする」、「強欲な高利貸し」といった魅力ある最低のイメージの形容語であることは、洋の東西をとわず否定できない。 しかし、ヒルはそのひとつの語源が「お医者さん」であるように、人間の肩こり、うっ血、腫れ物などの治療に欠かせない有益生物として採集、飼育され、だいじに扱われてきた歴史ももっている。 日本でも同様であり、医療用生物とされて、瀉血用にさかんに用いられてきており、近世まで山間部では雑貨屋で売られ、町なかでもヒル売りの行商人がいて、俳句にも登場している。
そうした、医療用に用いられたヒルの歴史がある一方で、いま話題の困ったヤマビルの存在があり、その被害は最近、ほとんど全国にわたり、かなり広範かつ深刻なものになってきた。
その原因は、里山の荒廃、野生動物の増加と進出、地球の温暖化などによるといわれている。 ヤマビルに関する知識、情報はネットなどをつうじて今は多方面から豊富に収集が可能である。 ご承知の方も多くおられるとおり、とくに、ネットのホームページ、ヤマビル研究会(以下、ヒル研さんと略称)の情報は圧倒的に多彩、豊富で、ヒルに関心のある方は、まずそのページをご覧なされるといいだろう。 ふつうはこれで十分、なっとく、満腹なさるはずだ。
私はこれまで、そういったネット上の巨大な情報世界にまったく疎く、井の中の蛙のまま図鑑類や実地試験をつうじ知識の蓄積につとめてきたひとりだったが、今度、同研究会の記事を拝見して、これまでの自分のうすっぺらな知見などあわれ、木っ端微塵に吹き飛ぶのを痛感した。 そこで、あえて私の駄文が屋上屋を重ねる愚はさけるべき事態となってしまった。
とはいえ、「ぬめぬめ、ぐねぐね」して、ちっちゃいくせに、血なまぐさくて凶猛であり人騒がせなヒルはやはりこだわってしまう動物だ。 ヒル様は、ハイカー、登山者、生物、植物愛好者・研究者たちのつねに愛してやまぬ、興奮をよぶ話題の提供者にまちがいなく、ヒルを語るそれら善男善女の方々は国境をこえ皆がみな表情が若返り生き生きするのです。 私としても、そのような楽しい談論の輪にもぐりこまない術はないのです。超然としてはおられません。
そこで、同研究会の記事をいろいろ借用、参考にさせていただきながらも、私なりに勉強してまとめた、あるいは脱線した、山のヒルの情報を報告してまいりたい。
************************
蛭退治するのに塩を使ひけり もみぢ
*当然ですよ。伝統的な退治法ですね。
山ヒルに出会う一樹下梅雨じめり 詠人知らず
*居そうな感じです。
山蛭の落ちて来るなり登山道 詠人知らず
*5/17のW君がこんな感じでした。釈迦の中尾根の登山口付近でね。
月光や山蛭載せる鉈の上 詠人知らず
*鉈を使う山行ならやはり南アルプス深南部辺りか。
笠の音山蛭落ちて首を縮む 詠人知らず
*そんな音があるかいな。
炎帝の下さわやかに蛭泳ぐ 原石鼎 「花影」
*季語が重なっている。吉野はよほど蛭が多いと見える。しかし、あそこの柿の葉寿司は旨い。軒先に看板があり、求めると自家製を売ってくれる。もうそんな時期である。ほぼピークを踏んでもう行く機会はないが柿の葉寿司が呼んでいる。
蔓踏んで一山の露動きけり
淋しさにまた銅鑼打つや鹿火屋守
かつて渡辺立男句集『薄雪草』(平成4年)の中に
山蛭や鉈目のふかき栂の幹 渡辺立男
を見つけて南アルプスの深山あたりを彷彿とさせる手腕に感心したことがある。山蛭も句材になりうると思ってきたが佳句を得るのは難しい。長々と写生などして居れない。取り付かれたら冷静では居れない。
ところで一般の俳句は蛭をどう詠んでいるか検索してみた。
桑名山歩会のHPにヤマビル雑記があり、とても詳しいので俳句関連のみコピー&ペーストさせてもらった。ちなみにアルペンガイド『鈴鹿の山』の著者山口温夫はこの会の会員である。以下*は筆者のコメント。
蛭ひとつ水縫ふやうに動きけり 花 史
*よく写生している
しみじみと手洗ひ居れば蛭来る 中村汀女
*だから岩清水なんかで水を汲む際は注意しないと蛭が紛れこむからなあ
鎌研ぐや蛭泳ぎ来る遠きより 原 石鼎
*石鼎は奈良県の吉野に住んだ俳人。「頂上やことに野菊の吹かれおり」が有名。あそこも蛭は多い。そうかそうかと思う。
蛭の血の垂れひろがりし腓(こむら)かな 富安風生
*たしか逓信省の官僚でしたか。写生俳人らしい句です。「まさをなる空よりしだれ桜かな」が有名。豊川市に近い一宮町出身。
人の世や山は山とて蛭が降る 小林一茶
*「露の世や露の世ながらさりながら」と子の死を悼んだ一茶。言葉にならなかったのは分るが掲示の句は投げやりな気がする。
山深し落ち葉の空に蛭の降る 几 薫
*高井几薫は江戸時代の俳人。蕪村の弟子にしては今一理解不明。
時化(しけ)の樹海 山蛭這ふを自在にす 金丸鉄焦
*山やさんの作品でしょうか。リアルですね。
山蛭の縞鮮やかに霧流る 阿部?人
*うーん、これも良く見てるなあ。
山蛭が俺らの言ひ分聞いてくれ 詠人知らず
*血を吸うことしかないでしょうに。
見下して蛭をさげすむことは易し 山口誓子
*四日市市に長年療養のために住んだ。JACのマナスル初登頂に刺激されてか、御在所山に自力で登山し、病から脱した。小動物を取り上げた俳句が結構ある。蛭もあったんだなあ。
###########################
HPの続き
はじめに
いわゆる血吸いビルと人間とのついあいは、人類文明の興隆とともに何千年ものあいだつちかわれてきた長い歴史をもつ。 たしかに、「ヒルみたいな」という言葉は、今も昔も、「しつこくまとわりつく」、「たかって他人を食いものにする」、「強欲な高利貸し」といった魅力ある最低のイメージの形容語であることは、洋の東西をとわず否定できない。 しかし、ヒルはそのひとつの語源が「お医者さん」であるように、人間の肩こり、うっ血、腫れ物などの治療に欠かせない有益生物として採集、飼育され、だいじに扱われてきた歴史ももっている。 日本でも同様であり、医療用生物とされて、瀉血用にさかんに用いられてきており、近世まで山間部では雑貨屋で売られ、町なかでもヒル売りの行商人がいて、俳句にも登場している。
そうした、医療用に用いられたヒルの歴史がある一方で、いま話題の困ったヤマビルの存在があり、その被害は最近、ほとんど全国にわたり、かなり広範かつ深刻なものになってきた。
その原因は、里山の荒廃、野生動物の増加と進出、地球の温暖化などによるといわれている。 ヤマビルに関する知識、情報はネットなどをつうじて今は多方面から豊富に収集が可能である。 ご承知の方も多くおられるとおり、とくに、ネットのホームページ、ヤマビル研究会(以下、ヒル研さんと略称)の情報は圧倒的に多彩、豊富で、ヒルに関心のある方は、まずそのページをご覧なされるといいだろう。 ふつうはこれで十分、なっとく、満腹なさるはずだ。
私はこれまで、そういったネット上の巨大な情報世界にまったく疎く、井の中の蛙のまま図鑑類や実地試験をつうじ知識の蓄積につとめてきたひとりだったが、今度、同研究会の記事を拝見して、これまでの自分のうすっぺらな知見などあわれ、木っ端微塵に吹き飛ぶのを痛感した。 そこで、あえて私の駄文が屋上屋を重ねる愚はさけるべき事態となってしまった。
とはいえ、「ぬめぬめ、ぐねぐね」して、ちっちゃいくせに、血なまぐさくて凶猛であり人騒がせなヒルはやはりこだわってしまう動物だ。 ヒル様は、ハイカー、登山者、生物、植物愛好者・研究者たちのつねに愛してやまぬ、興奮をよぶ話題の提供者にまちがいなく、ヒルを語るそれら善男善女の方々は国境をこえ皆がみな表情が若返り生き生きするのです。 私としても、そのような楽しい談論の輪にもぐりこまない術はないのです。超然としてはおられません。
そこで、同研究会の記事をいろいろ借用、参考にさせていただきながらも、私なりに勉強してまとめた、あるいは脱線した、山のヒルの情報を報告してまいりたい。
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蛭退治するのに塩を使ひけり もみぢ
*当然ですよ。伝統的な退治法ですね。
山ヒルに出会う一樹下梅雨じめり 詠人知らず
*居そうな感じです。
山蛭の落ちて来るなり登山道 詠人知らず
*5/17のW君がこんな感じでした。釈迦の中尾根の登山口付近でね。
月光や山蛭載せる鉈の上 詠人知らず
*鉈を使う山行ならやはり南アルプス深南部辺りか。
笠の音山蛭落ちて首を縮む 詠人知らず
*そんな音があるかいな。
炎帝の下さわやかに蛭泳ぐ 原石鼎 「花影」
*季語が重なっている。吉野はよほど蛭が多いと見える。しかし、あそこの柿の葉寿司は旨い。軒先に看板があり、求めると自家製を売ってくれる。もうそんな時期である。ほぼピークを踏んでもう行く機会はないが柿の葉寿司が呼んでいる。
蔓踏んで一山の露動きけり
淋しさにまた銅鑼打つや鹿火屋守
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