治部坂高原の詩2022年01月06日

 昨日はあれだけ晴れたのに今朝はもう猿投山も冬雲に隠れてしまった。雪も降っている。それでも蛇峠山のあの展望を写真を見ながら反芻するかのように楽しんでいる。
 ふと思い出したのは昭和17年に青木書店から刊行された尾崎喜八の詩集『高原詩抄』の『美ヶ原熔岩台地』の詩である。

 登りついて不意に開けた眼前の風景に               
 しばらくは世界の天井が抜けたかと思う              
 やがて一歩を踏みこんで岩にまたがりながら            
 此の高さにおける此の広がりの把握に尚もくるしむ         
 無制限な おおどかな                      
 荒っぽくて 新鮮な                       
 此の風景の情緒はただ身にしみるように本源的で          
 尋常の尺度にはまるで桁がはずれている
 秋が雲の砲煙をどんどん上げて                  
 空は青と白との目も覚めるだんだら                
 物見石の準平原から和田峠の方へ                 
 一羽の鷲が流れ矢のように落ちていった 
以上

 蛇峠山のパノラマ台に
 登りついて不意に開けた眼前の風景に
 伊那谷ってこんなにも開豁な谷だったのか
 曾遊の山々にあいさつを送った
 南北120kmにわたる赤石山脈の白い巨峰の並ぶ様に驚き
 赤石岳と聖岳の間の未踏の兎岳が気になる
 木曽駒は一つのまとまった大山塊に見える
 ここからは空木岳も前衛峰の1つじゃないか
 伊那谷の奥座敷に富士山型の山は蓼科山だ
 そして尾崎喜八の詩心を刺激した美ヶ原
 御嶽山も乗鞍岳も名脇役に徹しているかに見える
 恵那山は治部坂峠の向こうに大川入山、恩田大川入山を
 従えて三角錐の頭をすこし出している
 西からのドーム型の山容に見慣れた目には新鮮である
 
 スキー板を外すのももどかしく、
 ザックからカメラを出して撮りまくった
 景色の奴隷になったかのように

 ここはまぎれもなく信州の山
 今年初めてのスキー登山でした。