秋冷の岳揃い立つ甲斐信濃 山元 誠2020年10月13日

句集『春星』よりP187
・・・さてどこからの山岳同定であろう。もちろん上信国境の山の一角に立ってのことに違いない。
 例えば浅間山は北が上州(群馬県)で南と西が信州(長野県)だから間近に高峰を仰ぐことができる。群馬県といえば、最高峰が日光白根山の2578mだから浅間山とは10m違いでほぼ互角である。群を抜いて高い山はない。
 一方で浅間山のすぐ南には赤岳2899mが聳える。揃い立つという表現だから八ヶ岳連峰の眺めは壮観であろう。直線距離にして約90km西には槍ヶ岳も見えるだろう。北アルプスの眺めも峰々が雪で白くなれば鋸の歯に見えてくる。日本でここでしか見られない山岳風景である。
 作者の目はいつしかふるさとの立山の姿を追っていることだろう。三角錐が剣岳、端正な山容は立山か。実家を継いだものの先立たれた弟への思いも募るだろう。今は亡き父母と弟、句に秘められた郷愁と山恋の重なる想いを読み取りたい。