山元 誠「カンチェンジュンガ」鑑賞2016年05月07日

 山元誠氏は富山県出身、群馬県在住の俳人。このほど届いた俳句雑誌「辛夷」に寄せられた特別作品「カンチェンジュンガ」の30句から琴線に触れる作品を鑑賞した。

冬霞忽然とダージリンの街

・・・未知の土地へのわくわく感があふれる。期待感を冬霞の季語に隠す。ダージリンはネパールとブータンに挟まれたインド北部の街。お茶の産地として知られる。時々、ダージリンティーを飲むことがある。ヒマラヤ山脈の景観とトイトレインが有名。
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湯たんぽに立山ヶ根のことを思いけり

・・・作者は立山山麓の産。今でも寒い地方では湯たんぽを使う。私も冬の七面山に登り、敬神院に泊まった際に宛がわれた。起きてからはこれで顔を洗う。山岳宗教に縁が深いもののように思う。

神々の山嶺仰ぐ大旦

・・・ヒマラヤ山脈を神々の座と表現するようになった。

初日浴ぶカンチェンジュンガ朱を極め

・・・深田久弥『ヒマラヤ登攀史』(岩波新書)によると、世界第三位の標高を誇るカンチェンジュンガが古くから有名になったのは人間の住む所から一番近くに聳えていたからという。直線距離にして50kmほど。未明のタイガー・ヒルに登り、空高くバラ色に輝く荘厳なカンチェンジュンガの威容に接する、という。異国の丘からの初日の出というところに手柄がある。

玲瓏と雪嶺ヒマラヤ天に立つ

・・・玲瓏=美しく照り輝くさま。余計な説明は無用。

遙かなるマカルー・ローツェ初日浴ぶ

・・・日本山岳会東海支部に縁のある8000mのジャイアンツが2座も詠まれている。海外詠でしかも山岳俳句としてスケールが断トツに大きい。
 1970年のマカルー東南稜から初登攀は『遙かなる未踏の尾根MAKALU1970』にまとめられた。2006年に田辺治らがローツェ南壁の冬季初登攀を果たす。田辺はヒマラヤに通う理由をただ美しいから、と答え、今はダウラギリの雪の中に眠る。
 ダウラギリといえば、友人の故角谷柳雪の俳句を思い出した。所属雑誌「獺祭」の巻頭を飾った山岳俳句である。
  オリオンの盾ゆるぎなしダウラギリ   柳雪 

寒昴天に聳ゆる十四座

・・・ヒマラヤとカラコルムにある8000m峰十四座のことである。
1 エベレスト
2 K2
3 カンチェンジュンガ
4 ローツェ
5 マカルー
6 チョ・オユー
7 ダウラギリⅠ峰
8 マナスル
9 ナンガ・パルバット
10 アンナプルナⅠ峰
11 ガッシャブルムⅠ峰
12 ブロード・ピーク
13 ガッシャブルムⅡ峰
14 シシャパンマ

宙に浮くカンチェンジュンガ星冴ゆる

・・・ちゅうに浮く、ではなく、大空(そら)に浮くの意。カンチとタイガーヒルの距離は約50kmある。富山県の呉羽山145mの1等三角点と立山(雄山)3015mの1等三角点は40km間隔。仰角の比較では立山呉羽山間の方が大きい。但し、インド奥地の更に奥に聳えるので大空に浮くという表現になるのだろう。