鑑賞 浅野梨郷の歌①2015年06月30日

白皚々たる2月の乗鞍岳
歌集『豊旗雲』(昭和31年刊、武都紀叢書)から

野のきはみ田の水ぬるむきざしありて白皚々の雪の山見ゆ

*早春の田園風景の彼方に真っ白な残雪の山が見えるというのだ。田の水ぬるむというのだから田の薄氷も解ける頃だから2月末か。名古屋の歌人だから、おそらく、御嶽山か中央アルプスであろう。もちろんどこと特定することなく、自分の体験に照らして鑑賞してみるが良い。
 2月も雨水あたりから以降は名古屋では雨でも山の高いところでは降雪のこともある。日照時間が長くなるに従い、春光を浴びて一層、白皚々と輝いて見える。淡々とした写生のなかに自然の美に没頭し無我の境地に浸る歌人の風姿がある。漢語の持つ格調をうまく配した佳品。