来島靖生編「岩本素白随筆集 東海道品川宿」を買う2008年02月24日

 いわゆる東京散策ものの一冊である。本といい雑誌といい東京散歩はそれだけで一冊の本になり特集になりうる。「東京人」「荷風」という雑誌まである。24日付けの日経新聞、毎日新聞のコラムで取り上げられていたので買ってみた。
 今まで永井荷風(1879-1959)くらいしか知らなかった。素白は品川の産で1883年生まれの1961年没であり、若干の違いはあるが多く荷風と重なる。荷風は1902年発表の「地獄の花」という小説で始まる。随筆は1915年の『日和下駄』が知られる。没後は「断腸亭日乗」という日記で有名になる。対する素白は1907年(明治40年)に小説を書いているが断念。1932年(昭和7年)に早稲田大学で随筆の講師となる。荷風は1910年に慶応義塾大学の教授になるから何といっても荷風の方がすべてに早い。
 『日和下駄』は雑誌「三田文学」に発表したものをまとめた。晴れた日は日和下駄を履き蝙蝠傘を持って東京市中を歩いたという。素白も晴れた日は杖を持ち裏町や寒駅を飄然と散策したという。まるで随筆文学の早慶戦のようである。どちらも急速に失われ行く古い江戸や明治のたたずまいへの愛惜では共通する。本書は歌誌「槻の木」に発表したものをまとめた。