市中は物のにほひや夏の月 野沢凡兆2021年05月20日

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 (意訳)夏の宵、暑さに戸窓を開け放った町家。生暖かい風に夕餉の焼き魚煮物など、さまざまなにおいがただよう。いかにも庶民のにおい、生活臭。見上げると、お月さまが涼しげに出てきた。きれいだなぁ。こうなると、町のにおいもまた一興というものだな。

 季節感あふれた秀句だと思います。当時は平屋造りの家ばかり。もちろんエアコンも扇風機もなく、町中のにおいは実感だったでしょう。要するに臭かった(笑) とはいえ、人々の近しい暮らしぶりが彷彿として、現代人にはむしろうらやましく感じます。そしてこの句は、夏の月との対比が眼目です。この発句は「にほひ」と「月」で、嗅覚と視覚に焦点を当てています。それならばと芭蕉のつけた脇が「あつしあつしと門々の声」でした。「声」=聴覚をもってきました。このへんが芭蕉の上手いところで、発句を立体的に展開させています。

 凡兆(ぼんちょう、?-1714)は金沢の生まれ。京都に出て医者をしていました。俳諧の技量を芭蕉に高く評価され、去来とともに猿蓑の選を任されました。作風は芭蕉の門人らしく、調べにすぐれています。「上行と下くる雲や秋の空」「禅寺の松の落葉や神無月」 など、佳句を多く残しています。私の好きな俳人のひとりです。

・・・マンション住まいの今でも通じる俳句ですね。いい意味での写生句ですが、その時代の生活ぶりを切り取ってもあり、庶民の人生が浮かび上がります。