山岳古道⑧松浦武四郎が歩いた大台への道2021年02月21日

 晩年の松浦武四郎が歩いた道がある。大台ケ原と尾鷲を結ぶ古道である。この道を何度も往復している。ここ以外にも奈良県側からも入山している。古くから人が入っていたのである。

「小屋番の山日記」から
初冬の尾鷲道を歩き、マブシ嶺に登る
http://koyaban.asablo.jp/blog/2017/12/11/8746470

 身支度を整えて出発したのは7時56分。地蔵峠までは林道歩きである。軍手をはめても非常に寒い。峠からは山道に入るが、橡山に続く尾根を切通しされたために古い峠の趣はない。非常階段のような急登を強いられる。地元の篤志家らで転落防止のロープも張られている。尾根に届くと稜線歩きとなり山道も安定する。
 木立は落葉して見通しが良い。最初の道標は古和谷分岐である。ここからが古来からの尾鷲道である。下山路として今も歩けるのかどうかは不明だ。先へ進む。数分で又口辻だ。ここから山腹の水平道に入る。ふかふかの落葉の山道を歩く。北面には雪が積もっている。温暖なイメージの南紀の山にも寒波が来た。山腹の道、特に沢をまたぐ所は壊れやすく注意を要した。やがて新木組峠に着いた。ここは極端に寒かった。雪をかぶった大峰山脈が見渡せる。寒いはずである。峠の風下側に下ると若干寒さが和らぐ。少し食べたり飲んだりして休む。
 寒風に曝されながら落葉樹の冬木立の尾根を歩く。いかにも冬の山旅である。そうして木組峠に着いた。峠から破線路があるが尾鷲道は少し下る。先程ははげ山を越えたが山腹の尾鷲道は消失してしまったようだ。テープに導かれて山腹まで下ると再び道形を見出して歩いた。
 山腹を巻き終えると一本木の杭を見だした。あとは山頂までひと踏ん張りである。
 標高1216mの緩斜面に展開する雑木林は今は疎林となって平らかな別天地である。夏ならば緑濃き動物の楽園であろうか。
 山頂直下の疎林の中を歩く。北西からの寒風のせいか樹木はなべて矮小化している。余りの寒気に毛糸の手袋を出そう、雨合羽をはおろうと考えるうちに11時30分に三角点1411.0mに着いた。マブシ嶺である。
 紀勢線に名古屋から夜行列車がある頃から尾鷲道を歩いて見たかった。今回は三分の一くらいを歩いたことになった。大台ケ原山は高くはないが深い山域である。ヒマと交通の面で中々実行できなかった。伊勢道も久居ICまでしかなかった。R42を延々走ったものだ。名古屋から約230kmはあった。高速なら橋とトンネルでつないで180kmに短縮できる。
 大台の開拓を試みた松浦武四郎も奈良県側から入山し、下山は尾鷲道を下った。大杉谷を初遡行した大北聴彦と大西源一も下った歴史の道であった。

 以前はコブシ嶺(*1)と覚えていたが、このほど発刊の『分県登山ガイド 三重県の山』によれば松浦武四郎の紀行にマブシ嶺とあるのでそれに従ったという。私も松浦武四郎全集の中の絵図で確認した。どちらも由来までは言及はない。
 休憩の後、最高点まで行って12時30分に下山した。往きとは違い、寒気も和らぎ、陽光を一杯浴びて少し暑さも覚える日だまり山行の雰囲気になった。往路をそのまま戻り、15時10分ゲートに着いた。
 帰路はニホンジカ3頭に出会った。昨夜はタヌキ2匹を見た。けものが多い山域である。

*1コブシ嶺=この山だけを目指す登山ガイドは前掲の本が初めてだろう。過去のガイドブックを調べた。手持ちの書籍では
 ①昭和54(1979)年刊行の仲西政一郎編『近畿の山』(山と渓谷社)の大台の山と谷の地図に掲載。北の鞍部は雷峠になっている。点名は雷峠1である。雷峠から東の川へ本谷沿いに破線路が示されている。木組峠も木組谷をからむ山腹に破線路があり廃村木組がある。
 ②平成10(1998)年の小島誠孝『台高の山と谷』には尾鷲道が独立して章建てされている。ここでもコブシ嶺と書かれている。取材当時は伐採跡だったらしい。木組峠から古和谷へは猛烈なブッシュだったという。 
 ③『台高の沢』の見ひらき地図にもコブシ嶺とあったから関西岳人はコブシ嶺を踏襲しているのだろう。
 三重県の岳人らが調査して出来た書籍には
 ④平成21年(2008)年の津・ラ・ネージュ山岳会選『三重の百山』もコブシ嶺になっている上に大台ヶ原からの往復コースになっている。この当時は写真を見ると木立に囲まれて展望はないとある。今とはえらい違いである。以南は廃道化しつつあると案内してある。
 ⑤平成25(2013)年の伊勢山の会『宮川源流53山』には、大台ケ原からの往復ルートで紹介。まぶし嶺とある。この本では「展望360度の絶景の山である」と書いてある。写真にも高い樹木はない。
 
 コブシ嶺とマブシ嶺は2008年ころから変化したらしい。ネットの検索では以下が詳細である。最近ではマブシ嶺(コブシ嶺)と書いてあったりする。南から1411mのマブシ嶺に突き上げる光谷からか光山ともされる。(但し今の道標では1184mの山に当てられる。)

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