杉浦明平『ノリソダ騒動記』2020年10月09日

 田原市博物館では、2001年に亡くなった郷土を愛した小説家、杉浦明平の回顧展を開催します。

本人写真:1997年「書斎にて」、1929年「書斎にて」
 杉浦明平は、1913年(大正2年)6月9日、愛知県渥美郡福江町(現田原市折立町)に生まれた。旧制豊橋中学を経て第一高等学校に入学、「アララギ」に入会し、土屋文明に師事。東京帝国大学国文学科に進み、立原道造や寺田透らと同人誌などを創刊し、交流した。
 大学卒業後、イタリア・ルネサンス研究のため、イタリア語を習得、翻訳・編集の仕事に携わった。
 第二次世界大戦中、郷里に戻り、共産党に籍を置き、渥美町議会議員を2期務めた。その間の見聞を元に、海苔養殖業者の利権争いを『ノリソダ騒動記』というルポルタージュで発表、その後も共産党員の活動記録『基地六〇五号』、映画化もされた『台風十三号始末記』『夜逃げ町長』などの新スタイルの記録文学が評判になり、注目を集めた。
 1962年(昭和37年)に新日本文学会内部の対立で共産党から離れた後は、畑仕事にいそしみながら、郷土の渡辺崋山をはじめとした江戸時代の文人を取り上げた小説や評論、食べ物エッセイ、翻訳などの多分野で活躍した。『朝日ジャーナル』に連載した『小説渡辺崋山』で1971年に毎日出版文化賞、1977年に中日文化賞、1995年に『ミケランジェロの手紙』の翻訳で日本翻訳出版文化賞の特別功労賞を受賞した。

 火力発電所増設反対問題を契機に、1981年からは、地元の友人たちと読書会をし、地元の同人誌への寄稿も行なっている。1989年には、1カ月に1万ページの読書をしたことで集まった蔵書の一部を渥美町図書館へ寄贈した。杉浦が亡くなり、9年を過ぎ、来年3月で10年を迎える今、現在残された手紙や原稿、発刊された本などを通し、文学・評論・エッセイなどで、人間社会を見極めた「みんぺーさん」を回顧する機会としたいと思います。


アマゾンの説明 
 ノリソダとは海苔の着生する粗朶のことであり、渥美地方の漁業権をめぐって、地方ボスの支配する腐敗、不正を日本共産党の地区細胞が暴露し、果敢にたたかう。その一部始終を一種の記録として作品化したものが本書で、我が国ルポルタージュ文学の先駆的作品。地方色豊かな登場人物をユーモラスに描き、日本の地方居住者のいまも変わぬ保守性、狡猾さなどの心性をも典型化し得ている。

レビュー
「読書メーター」から転載
YO)))
「愛知,渥美半島は福江湾における,海苔の種付け利権をめぐる闘争史.地元のボス連に,共産党の細胞が立ち向かう社会派ルポルタージュ小説.と一面それは真実なのだけれど,著者の奇跡的とも言える軽妙飄々たる筆致によって,何よりもまず頗る面白い読み物として成立しているところに特色がある.ボスの一人釜之助なんぞは,組合の金を使って誰彼の隔てなく飲みに連れて行くもんで,「言われてる程悪い人じゃない」と呑まれてしまう人が多かったり.共産党細胞も郷里で活動してるもんで「太平のせがれ」と呼ばわれたり.田舎のリアリティが凄くある。」

ハチアカデミー
「ノリソダとは、海苔を付着させるための粗朶(木の枝)である。その棒と海苔の養殖を巡る、村の権力者と漁師たちの闘争の記録。社会派ルポルタージュではあるのだが、本書の魅力は何といっても人物描写。出鱈目な理屈で金をせしめる地方ボス「釜さ」を始め、敵も味方もどこかコミカル。養殖とはいえ、仕込んだ海苔が全て育つ訳ではなく、波に流されてしまう事も多い。それはどこか運任せで神頼みの生業なのだ。だからこそ彼らは思い通りに行かない不条理な日常の中でもどこかのーてんき。シリアスな状況の中の笑いこそ、本書の一番の魅力である。」

ねぎとろ
「ユーモアを交えた文体で楽しめる。私が言うまでもないが傑作ルポである。 しかし暗澹とした気持にもなる本。これは昭和20年代の話にもかかわらず、解説にもあるようにまったく今、現在の話として受け取れてしまうからだ。 自分のみの利にさとく、権力に極めて弱い地域ボス、ボスの下にうごめくお調子者たち、一時の団結で熱が冷める人民、都市部であろうと地方であろうと、我々の周りに幾らでもいる人々の原形がここにある。検察や警察もその構造自体は今と変わらない。我々の民主主義はこの60年間何をしていたのか、と思わされる。」