ゆふぐれし机のまへにひとり居りて鰻を食ふは楽しかりけり 斎藤茂吉2020年07月22日

  鰻といえば、歌人の斎藤茂吉が有名な食通だった。いくつかの短歌を残した。うちの一首が表記の歌だ。
 ブログ「つぶやき館」の記事から
「斎藤茂吉の歌論が『実相観入』という概念で成り立っている。正岡子規の唱えた短歌写生の説は基本的にアララギ派のなかに継承されたと云えるが、斎藤茂吉はさらにこれを深めようとして用いた概念である。
 実相とは「現実の相」のことであり、対象のあり方を現実的に見るべきことを示すものであり、観入は「実相に見入り聴き入り、そして観相する」という観照の働きを示している。」としている。
 この短歌も中身は何もない。ちょっと小難しい理屈をいえば短歌の理論として成り立っているのである。

https://manyuraku.exblog.jp/29538843/
「万葉集遊楽」から

茂吉がそれほどまでに好んだ鰻ですが万葉集には2首、それも大伴家持しか詠っておりません。

「 石麻呂(いしまろ)に 我れ物申す 夏痩せに
       よしといふものぞ 鰻(むなぎ)捕りめせ 」 
                    大伴家持 巻16-3853  

( 石麻呂さんよ どうしてあんたはこんなにガリガリに痩せているの?
  夏痩せには鰻がいいというから、鰻でも捕って食べなさいよ )

「 痩す痩すも  生(い)けらばあらむを はたやはた
        鰻を捕ると 川に流るな 」 
                        巻16-3854  大伴家持

 ( しかしなぁ、痩せているとはいっても、命あってのものだよねぇ。 
  鰻を捕りに行って川に流されてしまったら元も子もないもんなぁ。)

     「生けらば」:生きあらば 
             ( 痩せているとはいっても)
             生きておればそれはそれで結構だが
     「はたややた」:その反面

石麻呂は百済から渡来した医師、吉田連宜(よしだのむらじよろし)の息子で生まれつき体がひどく痩せていたようです。作者は父、旅人とともに二代にわたり親交があった仲なので遠慮なくからかったのでしょう。

石麻呂の父は世間で「仁敬先生」と敬われた名医。「名医の子なのにガリガリに痩せているのかい」という「からかい」がこもる一首です。

当時は鰻を丸ごと火にあぶって切り、酒や醤(ひしお)で味付けしたものを山椒や味噌などを付けて食べていたらしく、それほど美味いとは思われませんが、家持さんも食べたのでしょうかね。