「第21回企画展 幕末維新を生きた旅の巨人 松浦武四郎」へ行く2018年09月17日

 16日の朝8時過ぎ、天白の自宅を出発。R23へ入り、津市の三重県総合博物館を目指した。天気は曇り時々篠つく雨で鈴鹿山脈も雲の中だった。
 津市の官庁街にまで南下してしまったのでナビでチエックすると少し来過ぎた。津駅前で北上し、近鉄線、伊勢線をわたって県道10号へ出るとすぐに博物館に着いた。三重県出身者だがここは初めてのところだ。チケットも第3日曜は20%引きの640円だった。
 館内に入ると蝦夷のアイヌ人のくらしの説明ブースがある。そこで少しばかりタイムスリップしてから順路に入る。武四郎は旅の人だが、旅は即見聞を広めて、観察して、記録してと知的好奇心を満たすものだった。

 この軌跡は豊橋市出身の菅江真澄に似ている。生没年は宝暦4年(1754年) - 文政12年7月19日(1829年8月18日)なので、武四郎の生没年、文化15年2月6日(1818年3月12日) - 明治21年(1888年)2月10日)に重ねると、11年間は同時代を生きたことが分かる。菅江真澄も旅と人々の暮らしの観察者であり、記録の旅人に生きた。武四郎はその後輩になる。

 旅の巨人の展示は即ち著した文物が中心である。最後の段階で大台ケ原山に至る。したがって地味なものである。一巡して何かスパイスが足りない気がした。一旦館を出て昼食。午後から始まるトークに期待した。大川吉崇氏のミニレクチャーのテーマは「松浦武四郎と大台ケ原登山の謎」。
 13時30分から開始。講師の大川氏が開口一番今日は10人も入れば良い、と思っていたそうだ。席は満席になって満足そうだった。
 自分の名前を冠した大川学園を経営した教育者らしく、78歳の高齢者らくしくない熱弁をふるわれた。三重岳連の顧問であり、登山への情熱は若いころからのことで人後に落ちない。武四郎への思いも一入の人である。
 著書も紹介された書名はずばり『大台ケ原登山 知られざる謎』でレクチャーのテーマそのままであった。要旨は当時は秘境だったということ。そんな場所へ入山した武四郎の心理を探りたいのが大川氏の狙いである。結論は推測の域を出ないままである。
 熱弁の後は会場へ再入場させてもらい、ギャラリートークが始まった。博物館の学芸員から文物についての解説を走りながら伺った。最後の大台ケ原でやや丁寧な説明にやはり学芸員の解説がいないと素通りしてしまいそうな展示であると思った。
 やや満足になったので館を出て県道10号で北上。前方には錫杖ヶ岳の尖峰、経ヶ峰が見えた。北には鈴鹿山脈が横並びに見えた。三子山から仙ヶ岳の双子峰、鎌ヶ岳、御在所も南からの角度で見ると3つに並ぶ。釈迦ヶ岳を認めた辺りからはいつもの鈴鹿山脈の姿になった。R23へ迂回して帰名した。
 帰宅後はアイヌの文化再考になった。武四郎はアイヌ語を覚えたと言うが、アイヌ語の原文からの翻訳物はない。これまでにも他の学者、研究者にもない。その点を大川氏や学芸員に質問したが回答はなかった。無関心なのだろうか。
 一つの民族において文字がないとはどういうことなのか。
 大和民族も文字を持たなかった。大和言葉を漢文で書き著した。これを整理したものが『古事記』である。『古事記』を解説したのは松阪市出身の本居宣長であった。また外国に対してアイデンティティを示すために日本の国号を冠した歴史書『日本書紀』は唐の人らにも理解できるレベルの漢文で書かれたらしい。
 アイヌのユーカラはアイヌ語で語られた叙事詩であるが、原文は無く、日本語のカタカナで書かれている。
 武四郎もアイヌ人から地名を「ピーエ」と聞くと「美瑛」と漢字で書いた。一事が万事そんな調子である。要するにアイデンティティがないのである。文字を持たなかった民族は歴史を記録できず、他民族に同化または滅ぼされた。北米インディアン、エスキモーなど。
 武四郎はアイヌ人とその文化を愛したが和人としては当時のロシアの南下に備える重大な目的があった。そのための蝦夷の探検であった。それがアイヌ民族を滅ぼす結果になった。
 所詮、アイヌは採集生活者であった。栽培せずに山川からの恵みで命をつないできた。言葉や文化は口承で間に合ったのだろう。文字が無ければ教育も充分ではない。
 記憶の民族よりも(文字による)記録の民族が優るのである。

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