低山学入門4・・・登山届と山岳遭難の経済学2016年12月04日

〇山岳会の役割の一つに遭難の際に捜索救助活動がある。
 山岳会といっても多々ある。ここでは各県の山岳連盟や労山に加盟する団体とする。それぞれ上部団体があるが岳連は公益社団法人日本山岳協会である。ここで山岳保険を扱う。
https://www.jma-sangaku.or.jp/cominfo/
 万一の遭難に備えて保険加入は常識になった。

〇山岳保険のあらまし
詳細は日山協のHPにあるので読んでおこう
http://www.jma-sangaku.or.jp/kyosai/profile/about-insurance/

 山岳会への加入はしないでも岳連に個人加入する手もあり、山岳保険にも加入できる。詳細は各県の岳連に問い合わせる。

 山岳保険は日本山岳会会員に独自のサービスがある。
 日本勤労者山岳連盟(労山)でも独自に扱う。
 平成19年には日本山岳救助機構合同会社がjRO(ジロー)という山岳保険も開発された。山岳団体への加入というハードルがない分加入しやすいと思う。
http://www.sangakujro.com/

 山岳会の捜索救助といっても北アルプスの岩場や深い山域では困難である。県警ヘリで救助されることも多い。問題は低山における捜索救助である。御在所山の岩場で事故があると友人で岩登りのエクスパートのTさん(故人)に協力要請が来たそうだ。岩場の事故はクライマーでないと手が出せない。
 現在は鈴鹿山脈では三重岳連と傘下の山岳会と有志が四日市西署に協力する形で捜索にあたる。北アルプスでは山岳捜索隊が独自に編成されているが三重県ではいわば民間協力に依存している。

〇救助・捜索費用の負担
 山岳会では万一に備えて捜索費用相当額を見積もってお金を貯めている。家族から捜索願いが出され、県警ヘリが出動するが存命の可能性が無くなれば出動しなくなる。
 それから後は家族の意思で有料で地元消防団などに依頼して遺体の捜索に当たる。山岳会でも有志を募って捜索に当たる。

 名古屋市の60歳の単独の女性ハイカーが御在所山付近の東海自然歩道で行方不明になった。1ヶ月、土日に地元消防団に依頼して捜索されたが見つからず打ち切った。1年後下流で遺体で発見された。捜索費用の余りの高額に耐えられないこともあった。この方は多分山岳会に未所属だったのだろう。

 名古屋市の40歳代の男性が2月中旬に藤原岳で行方不明となった。所属の山岳会から協力要請があり、合計7回ボランティアで捜索活動に出た。朝6時ごろ集合し、手分けしてそれぞれのルートをしらみつぶしに捜索したが、4月末、滋賀県側の谷で遺体で発見された。
 所属山岳会はなかったが、インターネットで拡散して多くのボランティアの協力者を得た。延べ人数に日当などを掛け算すると700万円相当にもなった。妻、中二の娘さん、両親、親族などが早朝から顔を出して我々に呈茶のサービスをして慰労にあたる姿に多くのボランティアがこの人らのために働こうと、心を動かされたのだ。また三重岳連の人脈も大きい。

 当事者の家族が一切顔を見せないと捜索協力は長続きしない。捜索には経済的負担だけでなく自分の生命をかけているからだ。

 北アルプスの八方尾根で行方不明になった高校生の息子を探すために家を処分した話も聞く。尾根に立つケルンはその記念碑と聞いた。
http://mtgear.blog18.fc2.com/blog-entry-67.html

 岐阜県では条例で12月1日から登山届を義務化して且つ違反者には罰金を科する規制が開始された。これまでも登山届の周知活動は活発に行われていたが罰則がないためか十分ではないと聞く。より徹底しようということである。
 警察側即ち岐阜県側からの立場では家族から捜索願いが出されたら動かざるを得ない。そこで登山届が出ておれば計画のルートを追って捜索活動ができ絞れるから短期に発見が可能になる。出ていなければ着手すらできない。

 例えば山スキーの好きな知人が長野県のある山に登山届を出した。1月中旬のことだ。帰ってこないので家族が捜索願を出したものの、登山口には車がないと分かった。車は北アルプスの白馬47スキー場の駐車場に置かれていた。天気が悪いのでゲレンデスキーに変更したのは良いが、ゲレンデだけで収まらず、村尾根のバリエーションルートに入ったらしい、と推測された。また、法大スキー小屋から南の尾根に滑降したとも推測された。最初は県警ヘリが空から捜索してくれたが絶望視された。私も4月から捜索隊に加わって考えられるルートを下ったが発見できなかった。結局6月になって村尾根の左の沢の中で遺体で発見された。5月GWに一度ならず捜索したが硬くて深い雪に埋もれていたのだ。
 この事例も未届けに当たる。岐阜県の条例は捜索救助で運よく救出されて、登山届が出ていなければ罰則が適用されると解した。死体では責任を問えない。何よりも捜索に要した費用は遺族の負担になるという事実。県警ヘリの捜索は税金で賄われるから本人や家族に負担はない。存命なら助かる。但し、遺体の捜索は友人であっても無償と言うことはない。

 山岳会で貯めているお金は出動してくれる会員に自弁させないための制度であって、遭難した人の救済制度ではない。だから事後は保険から支払われた保険金で弁済をしてもらうことになる。旅費交通費は当然であるが日当は各保険で出す出さないの違いがある。
 愛知岳連では山岳保険が出るまで立替える制度が新設された。設立の歴史が浅く遭難対策資金の積み立ての無いか、少ない山岳会が利用すればスピーディな捜索活動に入れる。

 山岳遭難を起こすと経済的には大いなる負担が生じる。生還できれば働いて返すこともできるが死ねば遺族にのしかかる。

 万一の遭難に備える意味で登山届提出の意味は大きく深いものがある。

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