低山学入門・・・体験的道迷いからの脱出方法2016年11月29日

 先日の遭難を考える会でも道迷いの事故は統計的に40%を越えた。道迷いから転倒、転落、滑落に結び付くことがある。奥美濃のヤブ山で道に迷い方向を確認するため木に登ったら折れて転落し亡くなった登山者もいた。この場合は転落死にカウントするだろう。
 道迷いを防止できれば一番いいが人間はそう完ぺきではない。間違うから人間ともいえる。危なっかしい山登りもしたが今まで辛うじて生き延びて来れた。その体験を披露して参考にしていただきたい。要するに行政側の指導はお世話になった人向けに発せられる。彼らとて実際に登山すれば遭難することがある。大きく報道されないだけである。
 教科書的メッセージではなく、登山者側の立場で考えてみた。

 過去に道迷いで困ったことは4回あった。2回は山頂が霧だった。1回はヤブだった。もう1回は残置された赤布だった。

1 霧の三周ヶ岳の場合・・・単独・・・霧で見通しが悪い場合の笹の中の踏み跡は見失いやすいので赤布を付ける
 笹をかき分けて登る際には迷うことはなかった。下山時に笹の中の踏み跡を追うがどうしても金ヶ丸谷の源流の沢に降りること2回。山頂へ引き返すこと2回。そこで地形図をよく見て、左側が絶壁だったことを知って、なるだけ左よりにルートを探った。無事夜叉ヶ池に戻れてほっとした。

2 霧の小津権現山の場合・・・3人・・・霧で見通しが悪い場合は赤布は手を抜かずべた打ちで付けておく
 今のように道標もなかった。踏み跡程度だったが何とか登れた。樹林帯では赤布を付けて下山に備えた。笹ヤブをもぐるように登るところは赤布を付けなかった。これなら分かるだろうという見込みがあった。登頂後、さて下山にかかるがはっきりしていた踏み跡がない。あわてて地形図とコンパスを出して下るが踏み跡が出てこない。3人で思案した。同行の1人が笹と樹林帯の境目から分かりにくくなったことを覚えていた。だからコンパスを見ながら尾根の方向に下ってみようと提案。それに従って笹のヤブをかき分けて下って境目でコンパスで方向を修正しながらトラバースしてゆくと登山道が見つかった。

3 御池岳の鈴北岳から鞍掛峠の県境尾根の場合・・・2人・・・間違ったと気がついたら戻るのが基本
 鞍掛峠への県境尾根の登山道は当時のガイドブックはxxxxxの印がありきり分がなかった。鈴北岳から笹の中の踏み跡を下るのだが右に県境尾根が見えるのでおかしい、と引き返す。また下るがどうしても同じところへしか行けない。間違ったと気がついて戻るから登山道の2倍歩かれていい道に見えるのだ。ええいままよ、と下るとチエーンソーの音が聞こえるのでそこの現場へ行くと作業員らは丁度帰る時刻だったので案内されると御池谷登山道に合流した。幸いに鞍掛峠まで送ってくれた。基本的には登ったルート(コグルミ谷)に戻るべきだった。枝道や獣道が多いので今もRFは慎重でありたい。

4 台高山脈縦走の場合・・・単独・・・残置された赤布に注意する
 1日目は伊勢辻山から入山、迷走しながら何とか添谷山まで来た。ここで登頂はした。本来の縦走路は右にそれる。ここまででも2回山頂を越えて行ったにもかかわらず山脈から外れたのは県境縦走路とはいえ、山頂は迂回するように付けられているからだった。それまでは右に高くなる県境稜線に気がついて戻ったが、ここでは赤布が続いているのでつられてしまった。かなり下ったところでパタッと消えた。それでも明瞭な踏み跡はあるので行くと鹿の巣のようなものをみた。そして下にはなんと尾鷲林道が見えた。その時点でも戻れば良かったが林道に下り、尾鷲辻に登り返した。
 先行者もおそらく獣道に誘われて下りつつ赤布を付けたものの間違いと気が付いて引き返したが赤布の回収をしなかった。

・既に付いている赤い布、赤テープ類は確かなものなら登頂や下山をサポートしてくれる。ところが登山者が気まぐれに付けたり、迷って同じところを戻らなかったりする場合は回収されないことがある。鈴鹿山系ではこれを信じて道に迷う事例が度々あった。
・有料の山小屋が発達した山系では登山道の整備、道標も整備されるが、低山では炭焼き道、植林道、獣道、鉄塔順視路が入り混じり、避難小屋すらない。迷い易い条件が揃っている。体力、登山技術はさほどでもないがRFは甘く見ないほうが良い。
・獣道と登山道の区別・・・獣の身長は約1mくらい、人間は約1m60センチ以上あるから踏み跡がしっかりしているように見えても樹木が顔を叩く場合は疑ってみる。
・樹木の木肌に鉈目があれば人が切りつけた証拠になる。
・人間特有のゴミがあれば登山道につながる証拠になる。
・伐採されると登山道は見失いやすい。日光が入ると藪が繁茂する。
・原生林の中の登山道はきれいに保たれる。
・道迷いの場合道のない沢は絶対に下らないこと。崖、滝が出てくるとザイルなどの装備がない場合対処できない。
・尾根の道で突然、左右に直角に進路を変更することがある。沢から尾根へと登山道が移る場合もあるので惰性で下らないこと。
・山に入ったら山に集中したい。世間話に注意力が散漫になり分岐を見落とすことがある。
・山道をよく観察して歩こう。突然、踏み跡が薄くなる、突然石ころが多くなる、突然ヤブがかぶさる、などは登山道から外れたことが多い。
・赤テープが両側に巻いてあったり、二重三重に巻いてあったり他とは違う場合は分岐になることが多い。注意を促すサインである。そんなルールが決められているわけではないが、低山歩きの作法である。
・ネット情報を信じ込んで大胆な登山は避けるが良い。何度も小さな失敗を重ねながら上達して行けば良いじゃないかと思う。
・道迷い事故の多発傾向にあって多くの有識者が読図力向上とか地図読みとか称する研修も大流行りになった。これらは技術として教えている。技術は要素のみを純化して教える。演繹法である。参加する価値はあるだろう。
・体験的方法は帰納法という。目の前にある情報からこっちだ、あちらだと推理する。地形図とコンパス、高度計などを活用しながら安全に無事下山する結論に導く。見えるはずの高圧電線が見えない。正しければ見えないはずの山や景色が見える。地図を読むということは等高線を読むだけではない。
http://koyaban.asablo.jp/blog/2006/11/08/700431