春闌けし牧をいだけど雪の嶺2010年03月08日

石橋辰之助『家』(三省堂)から。昭和15年発行。
 上高地の添え書きがあるので現在の徳沢園付近から穂高岳辺りを眺めての句であろう。春たけて、というからには4月下旬の牧場にも雪が解けて春が来たが高い山はまだ雪に覆われている様を描いた。
 上高地の牧場の歴史は古く明治18年に溯る。昭和4年に徳沢園が牧場の番人小屋として始った。昭和9年に牧場は使命を終えて観光地化が始ったようだ。牧場跡地はキャンプ場となった。昭和8年に上高地にバスが乗り入れたという。
 したがってこの句は大衆登山が始った頃に作られたのである。今は平凡に見えるが当時は徳本峠を越える登山者もまだ多かったというから相当賑わったであろう。上高地に留まる感じである。現代では上高地は出発地に過ぎず、悠長に構えては居れない。ゆったりした時間の流れの中で心行くまで山を眺めた所産である。