鈴鹿源流の沢旅-佐目子谷を溯る2009年11月24日

イブネの一角で
 今年最後の沢登りは鈴鹿近江側の佐目子谷の溯行であった。下降はハチノス谷である。そして沢納めとする。儀式にふさわしい充実の沢旅となった。
 11/22の朝4時20分、リーダーのW君の家に寄り同乗する。6時藤原岳山麓のPでF君と合流。沢同人が揃った。
 そこから国道365号で鞍掛峠トンネルを越えて滋賀県側に下り、永源寺町に向かって走る。山腹のカーブとアップダウンの連続する羊腸の道である。筒井峠を越えると懐かしい木地師発祥の地をうたう山里である。永源寺ダムの湖岸を走るとまもなく佐目であった。
 佐目とは谷川の出合、沢辺を開墾した土地の意味がある。今はダム湖に沈んだが段丘の地形の名残はある。林道に車を止めて仕度をすると出発時刻は8時30分になった。移動に随分時間を取られた。
 林道を歩き出すとすぐに山道となり、谷に下る。下ったところから沢身にそって溯る。いくらもなく遭難プレートの埋め込まれた大岩に着いた。そこからは広い川原歩きが始まる。右岸にはたくさんの野猿が屯していた。どんぐりでも食べているのだろうか。
 川原歩きが終ると狭くなり、何度も渡渉をしながら遡行する。左岸にはかつてのトロッコの橋梁やレールが散見された。どこかに鉱山でもあったのだろう。
 やがて下降の予定のハチノス谷の出合だ。姫ヶ滝がやや奥まったとこに落ちている。両岸とも屹立した巌がそそり立つ。水量はかなり多くで見ごたえがある。3段約30mはある。
 川原に戻って遡行して行くと両岸にビバークに素敵な台地が数多い。そしてそこには大抵、炭焼き窯跡が残る。戦後の石油が輸入されるまでは盛んな時代があっただろう。煙を上げる風情を想像するが同時に山住まいの人の現金収入の生活手段でもあった。石油にとってかわられたエネルギー革命は山村を荒廃に追い込んでゆく。山道が荒れ、信仰の道も途絶えた。こうして今は原始の姿に戻った沢の風景がある。
 下の方では残っていた紅葉も上流部ではすでに落葉していた。私たちは標高900mに近い三又付近に一夜のビバークサイトを設けた。そしてすぐに流木や枯れ木を集めて焚き火の準備をした。山ほど集めて着火剤で焚き火を試みた。最初は弱弱しかった火も勢いを増して濡れた木でも火力でよく燃えてくれた。山ほどあった枯れ木もあっという間に減った。そして渡渉で濡れた衣類を乾かすととても快適な気分になり、酒も美味しい。宴もたけなわというほど燃え上がる。小降りの雨も気にならない。
 早朝発で眠気が催して最初にシュラフに潜り込んだのは午後6時も過ぎた頃か。大粒の雨がフライを叩く音で目が覚める。まだ12時前である。4時30分の起床まではまだ時間がある。
 11/23。暗い内から朝食の準備を始め昨夜の残りの野菜や肉、はんぺんなどを放り込む。ぐらぐら煮立ったところでふうふう言いながら食べると段々体が目を覚ます。
 少しづつ明るくなる沢の中。ツエルトをたたみパッキングする頃にはすっかり明るさを取り戻す。濡れたままのネオプレンの靴下を履き沢靴を履く。焚き火の傍に乾かしておいたネオプレンのスパッツも雨に濡れてしまった。とりあえずはカッパだけで出発。午前6時予定が40分近く遅れたがまずまず。
 すぐの二又は昨日確認したので左へ入る。私はRFの確かな2人に任せてついてゆくだけである。F君は地図にない谷名もよく採集してこまごまとRFをしている。昔からのルートの佐目峠には向かわず、F君の希望するチョウシへの谷を目指す。小さなナメが現れて乗り越すと熊ノ戸平の一角に着いた。流れは平流=せせらぎになり、叫ぶような流れからハミングするような気分にさせられる。周囲は典型的な疎林である。岩盤を覗かせながらS字の流れのままにたどって歩く。
 素晴らしい自然である。登るにつれて草つきの大斜面が広がる。所々には大木が残る。奇跡的に生き残ったような木である。緩斜面を登り切るとイブネ、クラシ、チョウシの三山の中間に着いた。そこで小休止する。雨乞岳の双頭が大きい。鎌、御在所も朝日に眩しい。
 果たしてイブネの地名由来とはなんだったのか。
 伊船の地名はすでに鈴鹿南部にある。伊は井ではないか。井とは水路。高くそびえるという意味もある。溯ってくると熊ノ戸平に着いて以降は水路のような流れであった。
 それにこの山上の砂漠のような貧弱な植生はいかがしたものか。
 かつては大木の森であっただろう。木地師が伐り、続いて御池鉱山の生活に必要な木炭の原木として伐られた。山は次第に再生力を失った。ススキの原、笹原と変化し今は枯れた笹の跡をヒカゲノカズラが食指を伸ばすように猛威をふるい始めている。

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