トヨタの誤算2009年01月23日

 連日の報道によれば世界一の自動車会社となったトヨタも事務系出身の社長が3人続いてこの危機に際しついに豊田家に「大政奉還」した。以前の大政奉還は戦後の危機時に社長にさせられた石田退三から豊田英二氏に交代したときであったと思う。その間に窮地を救った三井銀行から送り込まれていた中川不器男が社長をやったかも知れない。
 14年前の業績が落ち込んでいた時には奥田社長が豊田家に代わって陣頭指揮をとり、拡大戦略を進めて世界一に登り詰めた。その瞬間に逆風が吹いた感じである。ただこの14年間は生産台数、車種、技術共に社業の発展はしたがトヨタのウリだった高品質、安価、故障が少ないといった点が犠牲にされた。生産台数以上にリコール車が増えた。ハイラックスサーフで重要な部品の品質不良(強度不足)が社会問題となった。不起訴になったが刑事告発され、刑事責任まで問われた。最近は見なくなったがトヨタ車の後を走っているとブレーキランプが片方切れた車をよく見かけた。あれも極端なコストダウンの所為だろう。
 工場をグローバル展開したため人材不足となり、国内の労務管理が行き届かず、自殺、過労死などが報道されて話題となった。奥田氏は一橋大出身で経理畑だから数字に強い。正確な数字の把握だけでは現場は分らない。事務系らしく数字だけを追い続けた結果であり大いなる誤算であろう。奥田氏を社長に据えたのは章一郎氏なので章男氏と前後して共に取締役を降りて引退する。 
 次期社長となる豊田章男氏は章一郎氏の長男で直系の血筋である。ハイラックスの部品の強度不足が問題となった際に「自動車会社として恥ずかしい云々」とコメントされたことを記憶している。あってはならない事件だった。彼は先輩経営者のミスをじっと観察していたのだ。そこで「現場重視」という発言が引き出されるのだろう。事務系は現場、技術には疎い。技術系はマネージメントが弱点である。章男氏はその両方をバランスよくこなせるか。
 章男氏の奥さんは三井銀行頭取の娘さんだ。戦後の経営危機で日銀名古屋支店の支店長の音頭でシンジケート団を組み、中でも三井銀行が中心になって救済された。その縁らしい。信用不安から住友銀行は逃げ、東洋ベアリング(現NTN)、川崎製鉄も逃げた。困難な中から再生してきた。当時の苦難を知るのは豊田英二氏ただ一人という。有力な部品メーカーに逃げられないように結束をというわけである。建て直しを豊田家に掛けるのはこんな歴史があるからだ。
 名門企業でかつ世界一のマンモス企業となったトヨタの舵取りを担う章男氏。朝日新聞にスクープされ、じわじわと反響を見ながら、オバマ大統領の就任の日に正式に報道されたのもトヨタらしい計算付くのアピールだ。そのお礼だろうか。レクサスのような高級車の新車もちゃっかり広告する。この危機というのに高級車の全紙広告もないだろう。かなり違和感をもった広告であったが日本はまだまだカネを持っている。春が来るのは意外と早いかも知れない。