映画「山の音」鑑賞2008年02月06日

 1954年東宝制作。成瀬巳喜男監督作品。
 鎌倉を舞台にした川端康成の「山の音」を原作に映画化された。鎌倉に住む中流家庭の家族劇。テーマは義父と息子の嫁の淡い恋情であろう。
 ドラマの中の台詞に原節子が山村聡に「お父さんと別れたくないの」云々と聞いてあれっと思った。これは小津安二郎の映画「晩春」のオマージュではないか。
 「晩春」では父笠智衆が婚期の遅れそうな娘原節子に結婚を促す場面でいう台詞であるが「山の音」では他に女性がいて婚姻関係が破綻した息子と離婚を勧める場面で義理の父に言っている。結婚と離婚では小津映画と設定が反対であるがそこが真似でない成瀬監督の矜持である。オマージュとは小津監督に対する尊敬であり、鎌倉を舞台にしたホームドラマという基本は同じながら細部で設定を変えてある。それでいてどこかに同じことを挿入してあり、分かる人には分かるのである。
 最近観た山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」にも小津映画の「父ありき」の釣りの場面が挿入されていてすぐ気づかされた。オマージュと思う。おそらくまだ他にもあるだろう。
 川端康成の作品はとても繊細でダイレクトな感情を剥き出しにすることはない。原作は読んでいないが読みたくなりました。息子の嫁に恋心を抱き一線を越えることがあるがこの作品では抑圧されている。そこが名作たる所以であろう。
 映画に捉えられた鎌倉の風景も懐かしい。同時代ではないのに懐かしいのはなぜであろう。小津映画の「晩春」「麦秋」も鎌倉が舞台だった。黒澤監督の「天国と地獄」も鎌倉が出てきた。鎌倉ってまた行きたくなりました。