映画「愛染かつら」鑑賞2008年01月27日

 川口松太郎原作。1938年(昭和13年)制作の松竹映画。戦前の大ヒットであったそうである。いわゆるメロドラマの名作。すれ違い。身分違いの恋愛を成就するまでの物語である。
 レンタル店にはなく、愛知県図書館で鑑賞。クレジットを見ると小津映画でお馴染みの俳優女優も多い。主演の田中絹代(1909-1977)、吉川満子、佐分利信、桑野通子、坂本武、斉藤達男ら。それに脚本は小津さんとコンビを組んでいた野田高梧である。当時としては豪華な配役であった。
 今見ても感動を呼ぶ場面がある。なぜそんなにヒットしたのか。時代背景が女性の解放に向っていたということが挙げられる。今なら当たり前だが当時の看護婦さんは独身者でなければ、という制限があった。子持ち(であることを隠して)の女性でも働いて自立的に生きる姿が描かれている。すれ違いや身分違いの筋立ては映画を面白おかしく見せるためであって作者の訴えたいことではない。虐げられていた女性の健気な生き方は共感を呼んだことであろう。
 与謝野晶子、平塚らいてう、市川房江らが生きていて女性解放運動で活躍していた時代であった。彼女等の運動は戦後になってから実るのだが。今では当たり前となった。戦後もウーマンリブ、セクハラなど女性解放、保護の運動は続くが参政権もなかった時代とは雲泥の差である。
 見所としては当時29歳の田中絹代扮する高石かつ枝の毅然とした演技が光るのである。独身で子持ちの女性が人生の荒波を越えて行く物語として観れば現代でも面白いのではないか。この人の芯の強い女性としての演技は一貫して「サンダカン八番館」まで続く。小津映画では芯の強さが災いしているかに思う。「私は小津組では失格でございます云々」といったとか。
 無声映画の「滝の白糸」(1933年)ではまだ女性が男性に犠牲になって(貢いで)男を立てるのであるがこの映画では男の弱さも浮き彫りにされている。この作品の1年後の1939年には「残菊物語」が同じ松竹映画でヒットしている。これも身分違いの女性が弱い男を立てる物語である。ともに最後は女性が死ぬ悲劇的結末である。1936年の「浪速悲歌」「祇園の姉妹」などもみな女性が主役の映画であったことを思うと女性賛歌の時代であったと思う。映画はこぞって女性が因習に打ち勝ち、自立的な生き方を応援したのだった。