冬来たりなば春遠からじ!!奥美濃・鍋倉山2008年01月26日

 有名な英国の詩人シェリーの詩文の最後の一節。「冬来たりなば春遠からじ」。厳冬の山深い奥美濃の山に来るとこのフレーズを思い起こす。森本次男の『樹林の山旅』の中にも挿入されていた。文語文の翻訳が日本人の感性にマッチするのであろう。俳句にも日脚伸ぶ、春を待つ、春隣などの季語がある。
 着いた所は東海自然歩道の案内板がある和佐谷の入口であった。前谷では無さそうなので地形図でチエックすると来すぎたようなので戻った。日坂川にかかる橋のところが前谷との落合であった。圃場整理された区画のところを若干奥に入る。砂利道の林道入口でPとした。
 林道は新しい堰堤まではまずまず整備されていた。堰堤の看板で前谷の名称を初めて見る。がその奥は荒れ気味である。雪はそこらから増え始める。道の中央まで雑木が生えて歩き辛い。高度を上げる、といっても高度計では600m前後であるが日光が燦燦と降り注がれて明るい気分になる。左上方には鍋倉山と思しき山が見える。ほとんどが落葉樹なので今はセピア色で植林と対照的である。 
 前谷の林道は地形図の高度で約660m付近から左へ曲がる。日坂越えへは谷筋の破線路になる。何となく谷に導かれていくが確証はない。歩きやすい地形を選ぶもすぐに浅い谷はどん詰まりとなり尾根に上らされる。尾根は風を受けるためか凍結して登りにくい。騙しだまし登ると鮮明な踏み跡がでてきたがこれはまだ東海自然歩道ではなかった。踏み跡は雪で隠れてしまい笹生の尾根を少し登ると自然歩道に合流した。
 整備された道は楽な道である。同行の女性達は「ああ!面白かった」などとはしゃいでいる。少しの下りで正規の日坂越に着いた。日坂峠と言わないのは別にあるからだ。坂内村と久瀬村の堺にある。日坂峠は昔は八草峠(はっそうとうげ)の正式名称であった。別称が正式な名称になったのはこれら3箇所の呼称を整理したものと推察した。
 日坂越からは小広い雪道をただ登るだけである。鍋倉山へは尾根が急なためにジグザグに登って行く。想定した以上に時間がかかったのはラッセルとまでは行かないがすたすた歩けない雪のせいであった。加えて朝の出発が10時過ぎとなり、日坂越えで手間取り、しゃりばての傾向もあった。ちょこっと小腹を足したりしたからだった。そして高度を上げるにつれて寒気が厳しくなっていく。雑木林がふんわりした蒲団綿を置いたように雪の白さで輝いている。とても美しい風景である。
 鍋倉山の山名板がぶら下がる所に来た。三角点「前谷」1049.9mである。高度計は1050mを指しピッタリ。前谷の源流の山だから点名も「前谷」なのだった。
 避難小屋までは一投足であった。美しい雑木林は春も秋もそれぞれに美しいだろう。しかし、冬こそもっとも美しい気がする。小屋周辺の広場は静寂に包まれていた。谷山からの道にもトレースはない。小屋はわれわれの独占であった。持ち寄った食材、コッヘル、コンロなど手際よく準備して鍋物に取り掛かった。各自の口から白い息が吹き出す。それほど冷えているのである。寒い小屋で温かい鍋を囲んで腹いっぱい食べた。
 小屋は以前の忘年山行にも長者平から来たがあの時も楽しくて時間が経過するのも忘れた。下山時にはヘッドランプを点けて歩いた。小屋は建て替えられた気がする。以前は地面に直に建っていたが今は1mほど床を上げてあるからだ。屋根の軒先も雪で壊れていたが今のは最初から折れ曲がった形に設計して雪が落ちやすいようにしてある。
 3時前、小屋を出た。来た道を戻るも荷物は軽いので楽である。水は約3L,Fさんには食材をボッカしてもらった。その分が減ったから飛ぶように下る。日坂越からどうするか。日坂三角点820mに寄るにはもう時間がないので前谷を下ることにしたが来た道は迷った道なので不可。鞍部から浅い緩やかな谷を下ることにしたがすぐに小さな滝に出くわす。半々に分かれて滝の周囲を巻いた。若干で明るい谷になった。先頭のFさんが朝のルートに合流したことを告げた。
 何のことはない。朝見たよく踏まれた道こそ日坂越であったのだ。地形図では谷筋であるが谷は増水になると利用しにくい。そこで道は尾根に付けられることが多い。地形図の破線路の道は想像の産物であろう。
 前谷林道を坦々と下る。雪雲が空を覆い、日没が迫り来る。冬山の寂しさが極まる、と言いたいが同行の4人の女性たちは元気一杯である。しゃりばてならぬしゃべりばてもない。寂しさも笑いの種にされそうだ。おばさんパワーには適わない。
データ
前谷林道入口10時出発日坂越12時鍋倉山避難小屋13時25分14時45分出発日坂越15時25分前谷林道入口16時50分
三角点データ
鍋倉山=1049.9m点名「前谷」、4等860.5m点名「瀬倉」、3等820.7m「日坂」(地形図では820.8mと印刷されている)、貝月山=2等1234.3m点名「品又」、3等780.2m点名「日坂峠」、4等802.9m「貝月」、ブンゲン、射能山=3等1259.7m点名「大岩戸」