映画の中の時代と風景2007年12月16日

 この所続けて見る映画は独立プロ制作のものが多かった。レンタル店の棚を隅々まで眺め回したがもう見たくなる映画のタイトルは見つかりにくくなった。名作中心の鑑賞は限界に近づいたのかも知れない。
 最近では、山本薩夫監督の「人間の壁」、「荷車の歌」、今村昌平監督の「豚と軍艦」、娯楽中心の「男はつらいよ」シリーズ、「釣りバカ日誌」のシリーズ、「サラリーマン忠臣蔵」の正続編などだ。
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 「人間の壁」は日教組という教職員の労働組合の巨大組織と香川京子扮する女教師を中心に組織と人間の葛藤を描いた。原作は石川達三の名作。昭和34年の制作であるから日教組も昭和22年の発足以来25年は経過していたころだ。検索でWIKを見ると昭和33年の組織率は86%、48年後の平成18年では28.8%と低迷。日本社会党が民主党に吸収されたことも響いているだろう。先生はかなり以前から待遇改善が図られて今は新富裕層といわれる。したがって今はもう体制と闘う労組のイメージはない。先生の給料が良くなり、日教組に加入する先生が減った。支持する社会党が弱体化した。国鉄も電電公社も民営化されて益々社会党の弱体化が促進。ついに社民党と民主党に股裂きの格好で分裂した。
 しかし日教組が弱まるとまたぞろ道徳教育とか国旗掲揚問題が頭をもたげる。反面で日教組が強かったころは教科書に自虐史観が刷り込まれた。これは是正しなければなるまい。巨大で強すぎる労組は本来の目的を離れて政治にも参画して行く。今の日本はバラバラになってしまった。相対的に政府も弱くなったからだろう。
 そんなことを考えさせた映画であった。
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 「豚と軍艦」は横須賀に寄港する米軍の放出する残飯で豚を飼育するというヤクザの話であった。終始違和感がぬぐえないストーリー展開のまま終った。しかし、画像に閉じ込められたものは時代を反映していて懐かしい。オート三輪車、裸電球、大らかなアメリカ車、若き日の長門裕之、南田洋子、丹波哲郎も元気はつらつと輝いている。WIKを見ると重喜劇が今村監督のカラーという。確かに珍にして奇怪なりだ。何だか落ち着かない。
 最新の「日本の100人」(デアゴスティーニ・ジャパン)の「NO087小津安二郎」の中で「東京物語」などの助監督の経歴もある今村監督は小津さんの影響を強く受けたという。しかし徹底して小津さんの影響を消し去る猥雑な世界の映画を制作した人であった。
 恋人でチンピラの長門裕之扮する欽ちゃんの子供を堕胎したり、捨てられても、米兵に集団暴行されてもオンリーにもならず、新興の工業都市川崎にいって働こうとたくましく生きる若い女役を新人の吉村実子が演じた。重苦しい時代背景を背負いつつも好感が持てた。時代や状況に流されない人間像を描いた点が或いは小津さんの影響かも知れない。男達にズタズタにされても自立的に生きようとする女性に対する優しいまなざしは今村監督のものであろう。

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